2024年、インドにおけるインフルエンサーマーケティング業界の価値は前年対比20%増の550億ルピー (約9,444億円)に達しました。同市場は2026年までに25%の年平均成長率で拡大し、2027年には市場価値が1,070億ルピー(約1兆8,374億円)を超えると予測されています(Statista調べ)。
本記事ブログでは、インドのビジネスシーンを形成する上で重要な施策となっているインフルエンサーマーケティングにおけるトレンドをご紹介してまいります。
インフルエンサーマーケティング、市場成長の背景
インフルエンサーマーケティングの成長には、さまざまな要因があります。人口増加と経済成長に伴う、スマートフォンユーザーとインターネットユーザーの増加、加えてインフラの発展による5Gの普及。広告予算のデジタルシフトを背景に、B2B領域を含めた多様な業界でも施策の導入が進んでいます。それぞれの背景について詳しく解説して参ります。
企業の広告予算のデジタルシフト
2025年のインド広告市場は前年比7%増の1兆6413億7千万ルピーに拡大が見込まれ、その成長を支えるのが11.5%成長が予測されるデジタル広告です(GroupM調べ)。
特にインフルエンサーマーケティングは、従来のマス広告に比べパーソナルかつ高いエンゲージメントを生みやすいため、投資対象として優先されています。
データ裏付けで加速する予算拡大
インドの広告自主規制機関ASCIが発行するレポートによると、インドでは70%の消費者がインフルエンサー推奨製品の購入意向を示しており、インフルエンサーに対するエンゲージメントが売上、LTV、ブランド価値に影響することをファクトとして証明されるようになってきたことが、予算算出の後押しとなっています。
B2Bにおいても注目施策
インフルエンサーマーケティング情報サイトAmra & Elmaがまとめた調査で、米国のB2Bマーケターの85%が2024年にインフルエンサー施策を実施しているという調査結果も発表されました。
インドのB2Bでも、グローバルやスタートアップITを発端に、業界専門家を起用したインフルエンサーマーケティングが拡大しています。業界専門家と協業することで、信頼性やソートリーダーシップを高め、低コストで有効な情報を獲得する手段として注目されています。購買プロセスが複雑なB2Bにおいては、第三者からの推薦が意思決定に大きな影響を及ぼします。
エンゲージメントが主要KPIへ
広告費用のKPIとしてエンゲージメントが重要視されるようになっています。エンゲージメントの高い施策が売上に繋がる傾向がデータ化されたことが要因です。
インフルエンサーが語り手となるストーリーテリング式のブランド広告は、フォロワーとブランドの間に感情的なつながり、高いエンゲージメントを生み出し、これが意思決定の促進に繋がっていることがわかってきています。
インドインフルエンサーマーケティング事例10選
それでは、ここからはインド発ブランドとグローバルブランド、B2BおよびB2C企業それぞれの事例を順にご紹介して参ります。
インド発B2Cブランド
コスメブランド Nykaaとファッションインフルエンサー
インドコスメティック業界を代表するストーリーリテーラーであるNykaaは、ビューティーブロガーやメイクアップアーティストとのコラボレーションを通じて、効果的なインフルエンサーマーケティングを展開しています。
Nykkaはインフルエンサーマーケティング施策を初期より導入し、メイクチュートリアルやスキンケアルーチンなどの教育コンテンツを継続して発信したことでインドコスメティック業界の成長を牽引してきました。
ファッション特化型ECサイトMyntraとライフスタイルインフルエンサー
Myntraはインフルエンサーの家族のイベントやデートナイトとファッションを紐づけたキャンペーンを展開しました。オーディエンスは、自分にもあった似たようなシーンを思い出し、感情とともにコンテンツを視聴します。
このストーリーテリング手法は、単なるファッションブランドのプロモーションという枠を超え、視聴者との共感や感情的なつながりを生み出すことに成功したとExchange Mediaが評価しました。
老舗乳製品ブランド Amulとシェフインフルエンサー
Amulは、シェフインフルエンサーを活用して、Amul製品を取り入れたレシピや、インド人が親しんでいる食文化のストーリーを発信しています。
誰にとっても身近なAmulですが、専門的権威者であるシェフインフルエンサーによって視覚的にメッセージを伝えたことで、消費者は改めてAmulの信頼性を高め認識するようになったとHarvard Business Publishingが伝えています。
グローバルB2Cブランド
韓国発コスメブランドLaneigeとSara Tendulkar
韓国の有名ビューティーブランドであるLaneigeは、インド市場での存在感を高めるために、スキンケアに特化したブランド戦略の一環としてクリケット界のレジェンドSachin Tendulkarの娘 Sara Tendulkarをブランドアンバサダーに起用しました。Sara は、影響力のあるソーシャルメディアパーソナリティとして、美容やライフスタイル分野で高い信頼を得ています。
このパートナーシップは、デジタルに精通した若年層をターゲットにしており、ニッチを持ちながら幅広い人気と信頼性を持つインフルエンサーによってLaneigeのブランド認知度と魅力をさらに高めています。
フランス発Decathlon Indiaとフィットネスインフルエンサー
インド都市部で知名度を高める大手スポーツ用品店Decathlonは、国際的なアスリートでありインフルエンサーであるSonali Swamiと協業しています。
Sonali が、ライフスタイルを紹介する動画の中で、ワークアウトルーティンを紹介しながらDecatholonの製品を何気なく使用することで、製品をプッシュする広告型でなく、ワークアウトやスポーツがSonaliのような強くしなやかな憧れの女性になるための一つのエッセンスのように感じさせ、好感度のもてるブランドイメージを醸成しています。
日系ホームデコ Nitori India とライフスタイルインフルエンサー
Nitori Indiaは、2024年12月にインド初の店舗をムンバイにオープンしました。Nitoriのインド市場参入は、ムンバイという戦略的な立地への店舗開業によって注目を集めており、さらにインフルエンサーを活用することでブランド認知度を高め、店舗を賑わせています。
オーガニックなコンテンツクリエーターとして有名なライフスタイルインフルエンサーのVritti Khawaniは、Nitoriの機能性やミニマルなライフスタイルをトレンドを交えた視覚的コミュニケーションによって、高いエンゲージメントを生み出すことに成功しました。
インド発B2Bブランド
インド大手銀行Axisi Bankと金融商品特化インフルエンサー
Axis Bankは、法人向けプロモーションに金融商品の専門家Kunwar Raj氏とLinkedIn上で、インフルエンサーマーケティングを実施しました。
投稿では、カードの活用によるキャッシュフロー改善や出張費・交際費の効率的な管理など、実際のビジネスシーンにおけるユースケースをわかりやすく紹介。さらに、企業利用で得られるポイント還元や優待サービスなどの付加価値も具体的に説明し、読者が自分事としてイメージしやすい内容になっています。金融専門家としての信頼感と説得力を背景に、法人の決裁者層や経理担当者などから多くの関心を集め、高いエンゲージメントを獲得しました。
統合型SaaSを提供するZohoとデジタルマーケインフルエンサー
Zohoは、中小企業に強い影響力を持つオーガニックマーケティングの専門家Unnati Baggaを起用しました。彼女はLinkedIn上で、自身の会社でZohoのCRM「Bigin」を導入し、4か月で売上と生産性を3倍に向上させた実体験をストーリー形式で発信しました。
導入前の課題から改善プロセス、成果までをリアルに伝えることで、多くの中小企業経営者の共感を獲得しました。この結果、Zohoは「インドの現場で効果のでるCRM」としての信頼性を高めています。
グローバルB2Bブランド
米国発Microsoft India と テックインフルエンサー
Azure AI Influencers Dayは、Microsoftが主催するAI分野の最新知見共有とネットワーキングを目的としたイベントです。技術系インフルエンサーや開発者が集い、AIの活用事例や教育的取り組みを議論し、コミュニティ形成を促進しています。
その中で、RaunaK Madan 氏はグルがオンで開催されたAzure AI Influencers Dayに参加し、GitHub Campus ExpertやMicrosoft Learn Ambassadorとしての経験を交えながら、若手エンジニアコミュニティの育成や教育とAIの融合について発信しました。
Niharika Goel 氏はNoida会場でのセッションに参加し、イベントを主催したReskilllやAzure Developer Communityへの謝辞を述べつつ、AI技術に関わる知識共有と交流の意義を発信しています。
米国発Salesforceとマーケインフルエンサー
Salesforceはインドのミッドマーケットに向けたブランド強化を目的に、LinkedIn上で#IndiaGrowsWithSalesforceキャンペーンを展開しました。
現地の業界リーダーや従業員をThought Leader Adとして起用し、信頼性と専門性の高いストーリーで企業顧客層にリーチ。さらに社員自らがアンバサダーとして投稿する施策を組み合わせ、総投稿数1,400件以上、合計4万件を超えるエンゲージメントを獲得しています。
広告のクリック率もプラットフォーム平均の2倍を達成し、B2Bにおけるインフルエンサーの信頼性と企業発信の融合が大きな成果を生んだ好例であったとLinkedIn Marketing Solutionsの公式ケーススタディで発表しています。
基本施策の一つに定着か
インドではB2B・B2Cを問わずインフルエンサーマーケティングが急成長し、専門性や信頼性の高い業界インフルエンサーの起用が進んでいる事例をご紹介いたしました。
特に、LinkedInを中心に購買決定層への影響力が大きい専門家との協業が注目され、動画やストーリーテリングによる深い共感・エンゲージメントが成果を上げています。
業界動向としても徐々に成果がレポートされ、インフルエンサーマーケはもはやトレンドではなくデジタルマーケの基本施策の一つとなりました。なお、StorytellingではB2B・B2C双方のインフルエンサーマーケティング支援を行っており、いつでもご相談いただけます。