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ストーリーテリング手法 事例|Canvaの日米印向け広告で比較

2023年に投稿した「ストーリーテリングマーケティング手法とは?インド事例紹介まで」から数年経ちました。ストーリーテリング手法を使った広告やコンテンツ、全体戦略は、顧客との深いエンゲージメントを築くための手法として定着化し、Storytellerという職種も徐々に増えてきました。インドでは、特にその存在が顕著となってきています。

単純な機能説明やスペック訴求ではなく、物語を通して価値や共感を伝えることが、ブランドと人々の交流を強化し、成果につながることが複数のデータで裏付けられています。

  • ブランドストーリーを訴求する広告は消費者の支持や関与を高め、コンバージョン率を最大で30%向上させる(Higocreative調べ)。これは、単なる数字や製品情報よりも“物語”を通じて情報が伝わる方が視聴者の記憶や行動につながりやすいことを示しています。

  • 消費者の約64%がブランドのストーリーが顧客との強い結びつきを形成する助けになると回答(ClearVoice調べ)。ブランドの物語が信頼やロイヤルティに寄与することが分かっています。

とはいえ、まだまだストーリーテリング手法は、概念が曖昧でわかりにくいものでもあります。
本稿では、実際にグローバルで市場シェア、業界における影響力を高めるオーストラリアブランドCanvaの広告事例を通して、Canvaが日米印の各市場でどのようにストーリーテリングを設計しているのかを事例とともに見ていきます。

Canvaとは|オンラインデザインプラットフォーム

Canvaはオーストラリア発のオンラインデザインプラットフォームであり、専門的なデザインスキルがなくても直感的に使える操作性を特徴としています。
個人利用からビジネス、教育用途まで幅広いユーザー層を持ち、現在では190以上の国と地域で利用されています。

Empower the world to design.「世界中の人々が、自分でデザインできる世界をつくる。」

Canva mission

Canva ホームページより

Canvaのビジョンは一貫しており、「優れたデザインを提供すること」ではなく、デザインする力そのものを人々に委ねることに置かれています。プロと非プロの境界をなくし、誰もが視覚表現を通じて意思や価値を伝えられる世界を目指しています。

Canvaは、プロダクトやブランドメッセージの核を変えることなく、広告やストーリーテリングの設計を市場ごとに大きく変えており、ターゲット国の人々に伝わるストーリーテリング戦略を実施しています。
広告は、単なる翻訳やローカライズではなく、その国で最も自然に物語が始まる場所を起点に、ストーリーそのものを組み替えています。

日米印におけるCanvaのストーリーテリング戦略概要

Canvaの広告を日米印で比較すると、ストーリーの始まり方、登場人物、物語の着地点やストーリーを通して受け取る感情が大きく異なります。

日本では時間や空気、関係性といった目に見えない前提から物語が始まり、インドでは感情の発火点が起点となり、アメリカでは明確な問題と意思決定が物語を駆動します。
この違いはターゲット設定以上に、その社会で最も思考せずに感情移入できるシチュエーションがどこにあるかによって決まっています。

日本|沈黙と余白によって成立するストーリーテリング

日本向けのCanva広告は、出来事や課題から始まりません。
風景や季節の移ろい、日常の空気感といった説明されない前提がまず置かれます。
物語は進行するというより、静かに立ち上がっていく感覚に近いものです。

代表的な日本向け広告の一例が、年賀状をモチーフにしたストーリーです。

日本向けCanva広告(YouTube)

このストーリーでは、子どもや地域の大人、高齢者といった存在が中心に描かれますが、彼らは強い主張や明確な判断を示しません。

子どもが重要な役割を担っている理由は、子どもが語らない存在であるからです。
判断せず、結論を押し付けず、ただそこにいる。
その存在が、視聴者に解釈の余白を残します。

日本におけるCanvaは、感情を外に放出するためのツールではなく、感情を整え、静かに形として残すための「器」として描かれます。

ストーリーのゴールは行動や成果ではなく、関係性が変わらずに続いていること、感情が壊れずに保存されたことにあります。視聴後に残るのは納得ではなく余韻です。

インド|感情の共有を中心に据えたストーリーテリング

インド向けのCanva広告は、ほぼ例外なく人と人との交流展、感情から始まります。
別れや祝福、喜びや戸惑いといった感情が、説明を介さずに表情や関係性によって一気に提示されます。

代表的なインド向け広告はこちらです。

インド向けCanva広告(YouTube)

このストーリーでは、家族や複数人の関係性が常に画面の中心にあります。
インドでは感情は個人の内側に留まるものではなく、家族や周囲との関係の中で自然に共有されるものです。そのため主人公を一人にすると、日常感や現実味が薄れてしまいます。
家族は感情が最も自然に流れる最小単位であり、同時に最大公約数的なリアリティを持っています。

インドにおけるCanvaは、判断や成果を強調する存在ではありません。
感情を翻訳し、他者に手渡すための媒介として機能します。
ストーリーの終点は評価や成功ではなく、人と人との間での「共鳴」が起きた瞬間です。

アメリカ|意思決定と成果を描くストーリーテリング

アメリカ向けのCanva広告は、非常に明確な問題提示から始まります。
退屈な会議、伝わらないプレゼン、成果が出ない状況など、視聴者が一瞬で理解できる課題が最初に置かれます。

代表的なアメリカ向け広告がこちらです。
アメリカ向けCanva広告(YouTube)

このストーリーの舞台は職場です。
アメリカにおいて職場は、単なる仕事の場ではなく、自己証明と評価、競争と成果が集中する空間です。
年齢や属性を超えて共通言語が成立しやすく、自分事として理解されやすいシチュエーションでもあります。

このアメリカ向け広告の登場人物は、自立した大人です。
日本やインドの事例では、子どもや家族といった複数の人物が登場し、関係性や空気そのものが物語を成立させていましたが、アメリカ版ではあえてそれらが排除されています。

ここで描かれているのは「関係の中の自分」ではなく、「役割を持ち、判断し、その結果を引き受ける個人」です。
職場という舞台において、主人公は誰かに助けられる存在でも、感情を共有する存在でもありません。自ら課題に直面し、自らCanvaを選び、その選択の結果を一身に引き受けます。

また、日本やインドの広告では子どもが登場することで、物語に余白や感情的な安全性が生まれていましたが、アメリカ向け広告では子どもは登場せず、大人だけの世界が描かれます。
これは、感情や関係性よりも、責任、成果、評価といった要素が物語の中心に置かれていることを明確に示しています。

アメリカでのCanvaは、感情を受け止める器ではなく、意思決定を正当化し成果を生むための「武器」として描かれます。

ストーリーは必ず、問題の提示、選択、行動、結果、周囲からの評価という流れで完結します。
視聴後に残るのは余韻ではなく、「この選択は正しい」という納得です。

まとめ|ストーリーテリングは文脈の設計手法である

Canvaの事例から明らかなのは、グローバルブランドにおけるストーリーテリングは、文化背景に基づいた設計行為だということです。
日本では語らないことが意味を持ち、インドでは共有されることが価値となり、アメリカでは選択と結果が信頼を生みます。

同じCanvaというブランドでありながら、物語の起点も終点も異なる。
それでも一貫して「誰でもデザインできる」という価値が伝わっているのは、各市場で最も自然に物語が立ち上がる文脈を正確に選び取っているからです。

ストーリーテリングとは、表現技法ではなく文化理解そのものです。
Canvaはそのことを、非常に高い解像度で示している好例だと言えるでしょう。

参照データ Higo Creative|Storytelling Marketing Statistics https://www.higocreative.com/blog/storytelling-marketing-statistics Embryo|Brand storytelling: data-driven insights https://embryo.com/blog/brand-storytelling-data-driven-insights-on-engagement-and-loyalty/ ClearVoice|How storytelling and emotions drive conversions
How to Use Storytelling and Emotion in Your Content to Drive Conversions

著者

Storytelling LLP 創業者兼CEO。国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。