2024年7月31日、Godfrey Phillips India(以下、ゴッドフリー・フィリップス・インディア、以下、ゴッドフリー・フィリップス社)は裁判所の許可を得て、小売事業である24seven(正式名称、以下、24セブン)から正式に撤退しました。24セブンは、2005年に立ち上げられたインド初の24時間営業コンビニエンスストアで、業界大手の1社であり、今後の展開に期待がされていた最中のニュースでした。
本記事では、日本人にはもはや欠かせない生活インフラであるコンビニエンスストア事業が、なぜインドで事業撤退に至ったかについて解明していきます。
インド初大手コンビニ、24セブンとは?

24セブンの親会社であるゴッドフリー・フィリップス・インディア社はたばこ製造・販売会社で、国際的なブランドと提携し、Four Square(フォースクエア)やMarlboro(マルボロ)などを取り扱っています。年間総売上高は500億ルピー(約900億円)を超え、インドを拠点に数千人の従業員を抱える消費財ブランドです。
24セブンは2005年に、同社のサミール・モディ氏によって立ち上げられた、インド初24時間営業のコンビニエンスストアでした。食品飲料から日用品まで、幅広い商品をお手頃な価格で販売しているのが特徴です。2023年12月時点で、デリー州及び近郊都市、カルナータカ州、パンジャブ州などにおよそ150店舗を運営しており、将来的にはインド国内のすべての鉄道駅に合計500店舗の開設を試みていました。
2024年7月末に全店舗の営業を停止
2024年4月に行われた、ゴッドフリー取締役会からの発表では、長期的な業績不信や投資家の意見、市場環境、および戦略的な整合性が撤退の理由であるとされています。 業績において、24セブン事業は、2023-24年度に403億ルピーの収益を記録し、総収益の7.6%を占めていました。しかし、2024年3月31日時点での純資産はマイナスであり、2024年7月末に全店舗の営業を停止しています。
コンビニのビジネスモデルと成功法
ここからは、24セブンが事業撤退に至った理由を、コンビニのビジネスモデル、24セブンのインドにおける強みと弱み、現地の声などを盛り込みながら深めて行きたいと思います。
24セブンが業績不振になった理由を分析するために、まずはコンビニ事業が成功している日本でのビジネスモデルを自分なりにまとめてみました。
コンビニエンスストアの発展には「(営業)時間」「距離」「品揃え」という三つの利便性が貢献しています。値段や品ぞろえではスーパーの方が優れていますが、これらのすべての要件を満たしている小売店となると、日本ではコンビニエンスストアが唯一の存在です。
特に、欲しいと思い立った時に、実店舗を訪れて即購入するというニーズに対して、「距離の利便性」は重要です。コンビニエンスストアの商圏距離は、徒歩10分以内を目安とした半径500m程度と言われており、最低3,000人の商圏人口が必要であると言われていますが、都心部になると競合サービスが増えるため、商圏距離は5分程度だと言われています。
欲しいと思った瞬間から10分以内に商品が手に入るということが、日本におけるコンビニに求められている提供価値と言えます。
24セブンのインド市場における強みと弱み
「品揃え」の利便性
24セブンは食品・飲料から化粧品や日用品、携帯の充電やチケット購入のサービスまで幅広い商品を提供していました。売上の構成は、即席食品(ホットスナック)が25%、飲料が20%、輸入品FMCG(日用消費財)が20%、タバコが10%、ホームケア製品が2-5%、残りの売上が国内FMCGと分散しています。このことから品ぞろえの豊富さと、それぞれの商品分野において購入二ーズが存在することがうかがえます。
次に各商品分野についてです。売り上げの最も多い食品分野は、24セブンが特に力を入れており、強みであると考えられます。例えば、代表のモディ氏は、「あらゆる人に、贅沢かつ健康的で、おいしい食品を届ける」ということを強く主張しており、日本の食品加工システムを参考にしたグローバルスタンダードの設備を導入しています。
また、インド特有の食習慣の多様性にも対応しています。インド東部のベンガル地方では魚料理が人気であるのに対し、デリー周辺では魚料理を食べる習慣があまりありません。24セブンはこれらの多様な食ニーズに応えており、インド各地域のローカル料理から、タイや中国など海外料理まで提供されています。輸入品による売り上げシェアの大きさも目を引きます。
モディ氏は、グローバルスタンダードのサービス提供を実現するため、インド国内で手に入らないような海外商品を取り揃えることにもこだわっています。店頭にはスナックや日用品の輸入品に加え、ホットスナックのコーナーでもワッフルやホットドックなどインドであまりなじみのない商品を販売していました。輸入品の品揃えも24セブンの特徴であったと考えられます。
「(営業)時間」の利便性
24セブンの営業時間は週7日24時間。インドでは現在7つの州で24時間営業が解禁されており、夜間消費のニーズが徐々に高まってきています。Business Standardの記事によると、2023年から2024年にかけて、夜10時から4時の間の総消費額が60%増加したと言われています。
また、ミレニアル世代やZ世代の間で、夜中に家に集まりパーティーをする習慣が普及していることもあり、夜間営業はニーズを満たしているようにも思えます。
一方で、インドでは酒類の販売が法律で認められた店舗でしかできず、24セブンでは販売していません。インドの酒類市場は2023年時点で55億ドルあり、2027年まで年平均7%成長すると言われていますが、夜間営業をしていながら、夜間に消費の多い酒類を販売できない点は24セブンの売上にとって痛手であると考えられます。
「距離」の利便性

インタビューの総評として、住宅街エリアにおける店舗利用頻度は週2回程度の低頻度でした。数か月に1回程度の利用という人は多く、家の徒歩10分圏内に24セブンの店舗があるにもかかわらず6か月に1回の利用という人もいました。
住宅街エリアの店舗が利用されていない理由は2点考えられます。
1点目は明確で、家の近くに店舗がないということです。実際インタビューで24セブンが家のすぐ近くにあると回答した人は回答者の2~3割程度でした。
2点目はローカルショップやクイックコマースなどの競合サービスの存在です。 ローカルショップは、上記のようにローカルマーケットが住宅街の近くに多く点在しています。八百屋やお菓子屋、薬屋やストリートショップなど色々な店が集まっているため、少し遠いコンビニにわざわざ出向くきは起きません。クイックコマースとはコロナ以降インドで普及しているサービスで、オンラインで多様な商品を購入することが可能で、注文した商品は5~10分程で届きます。
思わぬ代替品の台頭。インド人のニーズを捉えたクイックコマース
コロナ禍以降、インドで発達したクイックコマースは、コンビニの代替サービスとなり急速に拡大しています。コンビニと同じ距離感覚でブラックストアと言われる倉庫が設置されており、アプリで注文受注後、10分以内に自宅の入り口まで商品を配達をしてくれる仕組みです。
日本のように歩行者のための交通インフラが整っていく、40度を超える酷暑の環境のインドでは、気軽に外出することが難しいため、届けてくれるサービスはまさにユーザーのニーズを捉えたサービスです。また、潤沢に存在するギグワーカーと言われる配達員人材がこのサービスを実現しているとも言えるでしょう。
2024年現在、取扱商品数は6,000~10,000まで拡大しており、日本の最大手コンビニストア、セブンイレブンが1店舗で取り扱う商品数が約3500酒類であることと比較しても、コンビニの強みでもあった商品数をあっという間に抜いてしまいました。
▶ クイックコマース詳細については「インドの主要クイックコマース5選」をご覧ください。
まとめ
インド市場におけるコンビニビジネスでは日本では考えられられないような事例が起きるものです。今回触れたのは、食習慣や消費行動の違い、ローカルショップやクイックコマースなどの現地特有の競合サービスなどの点でしたが、実際に現地でビジネスをするにあたっては他にも多くの点を考慮する必要があります。
これらの考察が日本の小売事業者や、その他の産業でインド進出を検討している企業の参考になれていれば幸いです。
著者

見上 すぐり
Storytelling LLP 創業者兼CEO
国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。

Himanshi Nathani
Storytelling LLP 短期インターンシップ
6年間日本語を学び日本語、英語、ヒンディー語、マハラーティのマルチリンガル。2023年に大阪大学へ留学。インドと日本の架け橋となることを目指し、両国の強みを生かした相互成長を志す。