Homeインドのラゲージ業界を再定義、MokobaraのD2Cを起点にしたデジタルマーケティング戦略Trendインドのラゲージ業界を再定義、MokobaraのD2Cを起点にしたデジタルマーケティング戦略

インドのラゲージ業界を再定義、MokobaraのD2Cを起点にしたデジタルマーケティング戦略

インド モコバラ
https://mokobara.com/

2020年創業、バンガロールに本社をかまえるMokobara(以下、モコバラ)は、D2Cサイトを起点にインド全土へ販売を展開。創業3年目の2023年3月期に売上5億3000万ルピー(約10億円)を記録しました。

都市部のZ世代から火がつき、ミレニアム層へと購買層を拡大したモコバラは、ラゲージ、バックパック、トラベルアクセサリーから、財布、ビジネスバック、女性向けバック、ネックピローや子供向けトラベルアクセサリーへと製品カテゴリーを拡大する今、インドで注目のブランドです。

インド モコバラ
https://mokobara.com/

同ブランドの急成長は、革新的な製品デザイン、D2Cを起点とした戦略的なマーケティング、そして進化するインドのオーディエンスに対する鋭い理解の融合が起因しています。

創業以来、強固なブランド・アイデンティティを確立し、デジタル上で一貫したデジタルコミュニケーションを取ることで、独自のブランドプレゼンスと忠実な顧客基盤を築いてきました。

本記事では、モコバラの成功要因を掘り下げ、競争が激化するインド市場でいかにニッチを切り開き、成長を遂げてきたかについてご紹介していきます。

モコバラとは?ブランド誕生秘話

インド モコバラ
https://www.aboutamazon.in/news/retail/interview-with-d2c-startup-mokobara

モコバラの創業者は、マヒンドラ&マヒンドラ(インド大手自動車メーカー)やフリップカート(インドAmazonに次ぐマーケットプレース)でキャリアを積んできたエンジニアのSangeet Agrawal氏(以下、アグラワル氏)です。

インドで購入したラゲージでインドを旅行したことがある人なら誰もが経験したことのある「このラゲージの車輪は旅の最後まで持つだろうか?」「ジップが壊れずに旅の最後を迎えられるだろうか?」という不安。そして、多くの人がその期待を裏切られることなく旅の途中で挫折と困難に直面します。創業者のアグラワル氏もまさにその体験をした当事者でした。

現代の日本では信じ難いかもしれませんが、インド市場には、機能性・耐久性・デザイン性、さらには購入しやすい価格帯の4つを兼ね備えたラゲージが市場に存在していませんでした。

モコバラは、現代の旅行者のニーズが求める品質とデザインの両方を兼ね備えた革新的なブランドを作るというアグワル氏のミッションのもとに誕生しました。

インドのインテリア市場を革新したUrban Ladder(アーバン・ラダー)が創業メンバーの共通項

インド モコバラ 創業者
https://yourstory.com/2024/02/d2c-startup-mokobara-bags-rs-100-cr-in-a-series-b-led-by-peak-xv-partners

創業者のアグラワル氏と共同創業者であるNavin Parwal氏(以下、パワル氏)は、インドのインテリア業界を変革する上で大きな役割を果たしたUrban Ladder(以下、アーバン・ラダー)の出身者です。

アグラワル氏はプロダクト開発、エンジニアリングに強みを持ち、パワル氏はアーバン・ラダー退職後、WeworkやUberのクリエイティブ・ディレクターとしてキャリアを築いてきたビジュアルコミュニケーションのプロフェッショナルです。

2018年頃にUrban Ladderがインド市場へ登場した時の感動を今でも覚えています。シンプルで少しではありましたが機能性を備え、インドの家屋にフィットする色調やサイズ感のインテリアがオンライン上で購入可能になりました。インテリアの選択肢が広がり生活が豊かになったと体感した記憶があります。

更には、Urban Ladderをインテリアブランドからライフスタイルブランドへと再定義したことで、従来プロダクトアウト型であったインドインテリア市場において顧客起点のマーケティングが導入され始めました。そんなUrban Ladder出身の二人がそれぞれのキャリアを積み、ラゲージ業界へ乗り込んだのです。

なぜ今、モコバラ?インド旅行業界のトレンド変化

1. インド人の旅行熱の高まり

国内外を旅行するインド人の増加に伴い、品質が良くでスタイリッシュ、かつ機能的なラゲージへの需要が着実に高まっていました。

特に、パンデミック後は、旅行熱への反動が顕著に現れ、2023年の観光産業は約200億米ドル(約3兆1,397億円)の収益(Statista調べ)を記録しています。2024年から2028年にかけての年間成長率は9.6%と推定されており、2028年には342億5000万米ドルの市場規模に達する見込みとなっています。

2. プレミアム志向の高まり

可処分所得が13.3%(2022‐23年)で増加するインドでは、より良い品質と充実した機能を提供するプレミアム製品への投資する人々が増えています。モコバラは、こういった新たに誕生した都市部のプレミアム志向の購買層から火が付きました。

3. Eコマース・ブーム

パンデミック禍におけるインドEコマース市場の急成長により、消費者はさまざまな商品カテゴリーや価格帯の製品をオンライン上で購入するようになりました。SNS上の動画やAmazonなどのレビューを参照し、製品の良し悪しを見抜く力を養い、購入するカテゴリーや価格の幅を広げました

市場ギャップを捉え、コロナ禍から成長

これまでインド市場に出回っていたラゲージは、価格が低ければ機能性もデザイン性も低い、または、品質が良いとしても価格が高くビジネスマン向けの黒やグレーを基調としたものが多く、機能性と耐久性そしてデザイン、更には価格の4つ兼ね備えた商品が存在していませんでした。この市場ギャップに目をつけたとアグラワル氏は語っています(Amazon Newsより)。

Z世代を飽きさせない多様な色とデザイン展開

冒険好きなZ世代は、旅のコンセプトや旅の目的、自分の在り方やその時の気分にあわせた色、形、ラゲージやアクセサリーを選ぶプロセスから旅を楽しんでいます。

モコバラのEコマースやSNSでは、これまでになかった洗練されたデザインやさまざまな色展開がランダムに表示され、Z世代を飽きさせることがありません。

インド モコバラ D2C
https://mokobara.com/products/the-transit-wave-cabin

更には、モコバラが提供するラゲージの価格は5,299ルピー(約1万円)からと、メインターゲットであるZ世代だけでなく、価格コンシャスなミレニアム層へも響く、ちょっと頑張れば購入できる絶妙な価格帯です。

インド モコバラ D2C
https://mokobara.com/products/the-transit-cabin-pro

2024年、Z世代に人気急上昇なバックパックシリーズも豊富です。多機能性、耐久性、軽量性、セキュリティ機能、そしてスタイリッシュなデザインを兼ね備えており、旅行だけでなく通勤、アウトドア活動、日常において高い利便性を提供する商品です。

インド モコバラ バックパック
https://mokobara.com/collections/everyday-backpack

冒険好きで野心的なZ世代の旅の真の目的からブランドストーリーを

モコバラのマーケティング戦略の一つの柱は、ブランド・アイデンティティの浸透にありました。

メインターゲットであるインド都市部のZ世代は、忙しなく、成長意欲に溢れる野心家、冒険を常に求めており、人と違うなにかを体験して、独自のストーリーを構築したいという欲求があります。そんな彼らにとっての旅とは、物理的に移動をするイベントであるだけではなく、目指す場所(ゴール)に向かうプロセスの中で、経験し、成長し、変化する人生そのものです。モコバラは、ターゲットの旅の真の目的を理解した上で、ブランド・アイデンティティを構築しました。

ブランド名である「モコ」とは、ニュージーランドのマオリ族に属する人々がする顔の入れ墨の一種です。このタトゥーは個性を表し、それをスウェーデン語で「運ぶ」を意味する「bara」と組み合わせて「Mokobara」に。個性を大切にするZ世代の在り方と旅をかけ合わせて生まれました。

タグラインである「#GoingPlaces」には、目指す場所(ゴール)に向かう旅を困難なく楽しみ、最高の気分で現地に到着できるようお手伝いするというメッセージが込められています。

ブランドカラーにはビビッドな黄色やインディゴブルーを中心に、複数の色やパターンを組み合わせ、移り気で野心的なZ世代の世界観を表現してます。また、独特な動画のアングルやポジション、最新編集手法を最大限に導入し、独自性の高いクリエイティブを次々と生み出し、Z世代の興味関心を刺激しています。

これらのブランド・アイデンティティは、ブランドの独自性を持ちながらターゲットの在りたい姿に重点を置き、さまざまな要素を考慮し、綿密に設計されていることが分かります。

リアルとデジタルを融合したマルチチャネルマーケティング戦略

Eコマースを起点としたデジタル・マーケティングでは、ブランド認知、集客、売上獲得を目的に、複数のチャネルを使いながらも一貫したストーリー性を持ってオーディエンスへ届けられています。

具体的な戦術には、Amazonなどのマーケットプレース、ソーシャルメディア、Eメールマーケティング、デジタル広告、インフルエンサーマーケティング、体験型マーケティングを組み合わせたマルチチャネルによるアプローチを実施し、2020年創業から3年間という短期間で強力なプレゼンスを創り上げました。

ここからは、それぞれの具体例を一部ご紹介します。

1. ソーシャルメディア

モコバラは、InstagramがSNSのメインチャネルです。 Z世代のモデルを起用し、旅のワクワクや悩みを解消するモコバラの機能紹介など、インドの旅路で起き得るさまざまな課題や困難をモコバラと克服し、最高の旅を体験しよう「#Going Places」というメッセージを一貫して発信しています。

2. インフルエンサーとのコラボレーション

旅やライフスタイル系インフルエンサーやブロガーとコラボレーションし、モコバラの認知度とエンゲージメントを高めています。

旅の始まりであるパッキングシーンや旅を共にするパートナーとの感情的なやり取りなどをインフルエンサーのストーリーを通して伝え、オーディエンスとの感情的な繋がりを生み出しています。

3. デジタル広告

モコバラはFacebook、Instagramでのターゲティング広告、リターゲティング広告、そしてグーグルの検索型広告を実施しています。

わたしがモコバラを初めて知ったのはInstagramの広告でした。その後、数ヶ月ほどモコバラの広告を高頻度で目にする中で、モコバラのスタイリッシュなコンテンツとプロダクトデザインの虜になり、まんまとキャビンラゲージを購入した一人です。

話が脱線しますが、製品を手にした時のWowは今でも忘れません。インドのラゲージで何度か痛い目にあっていたが故に、そもそもあまり期待をしていませんでした。車輪のスムーズな動きや高級感ある見た目と小分け収納がし易いミニポケットなど、予想を大きく超える品質の良さに感動しました。

現在、SNS広告ではサマーキャンペーンを実施しており、海外の避暑地へモコバラと旅しようというメッセージとモコモコのコートに身を包むファッションは、ローカルブランドにしてはあまりにも新しく、他社にはないアングルです。

4. ブランドコラボレーション

モコバラは、企業との共同キャンペーンを積極的に実施しています。これにより次なるターゲット層へリーチし、ブランド認知度を拡大しています。

コラボレーション先の一つであるIndiGo(以下、インディゴ)は、インドの格安航空会社であり、同国最大の航空会社の1つです。2006年に設立し、急速な成長を遂げ国内外で幅広い路線網を展開しています。モコバラがターゲットとするZ世代やビジネスマンの利用者も多く、2023年は1億人以上の利用者がいました。

インディゴのモットーは「低コスト・高効率」であり、その手頃な価格帯とミニマイズされたサービスは、モコバラのブランドポジショニングとも共通項が見られます。

5. 体験型マーケティング

当初バンガロール一店舗から始まったモコバラですが、2024年現在は、ムンバイ、プネ、デリー、ハイデラバードへと店舗を拡大しています
モコバラ 店舗 インド
引用元:https://www.linkedin.com/posts/ayushiyadav_goingplaces-goingplaces-mokobara-activity-7149621275647225856-IWuN?utm_source=share&utm_medium=member_desktop&rcm=ACoAAAjotIkBnyrLcAqGw7ZayC_HTaOlItCgncQ

同社は、店舗をEコマースを起点としたマーケティング活動を補完する体験型マーケティングの一つとして位置づけています。モコバラに興味を持っている消費者が実際に製品に触れ、スタッフとの問答を繰り返す過程で十分な情報を得ることで、購入の後押しをするプラットフォームとして機能しています。

店舗以外にもモールでのポップアップストアや旅行をテーマにしたイベントを定期的に開催しています。

製品開発・マーケティング・アフターサービスを通じて、顧客起点ブランドとしての一貫した姿勢

モコバラが、シームレスな顧客体験を提供するというコミットメントを顧客へ届けることに成功したいくつかの手法をご紹介していきます。

1. 課題解決型プロダクトとカスタマイズオプション

モコバラのインスタグラムを見てみると、モコバラの商品は旅の過程でおきえるあらゆるインド人特有の悩みからデザインされていることがわかります。インド人が今、抱える旅にまつわる悩みを解決する答えが詰まっているのがモコバラの商品です。 また、モコバラは、モノグラムやカスタムカラー、名入れなどのパーソナライズオプションを提供しており、顧客が自分のラゲージに自分らしさを表現する方法を提供することで、顧客体験を向上させ、ブランドとのより深いつながりを育んでいます。

2. 消費者起点の製品開発サイクル

モコバラでは、ソーシャルリスニングを実施し、顧客レビューやフィードバックを積極的に収集し、これを製品改良やマーケティングメッセージに反映させています。

デザインのマイナーアップデートや製品カテゴリーの拡大、縮小を頻繁に実施することで、顧客はモコバラがオーディエンスの声に耳を傾けるブランドであると認識しており、信頼を勝ち得ています。

3. マルチチャネルに展開するカスタマー・サポートとシンプルな返品プロセス

モコバラのカスタマーサポートチャネルは、Eコマースのチャット、電話、Eメール、ソーシャルメディアのダイレクトメッセージやコメント欄など複数のチャネルで開設されています。これにより、オーデュエンスは疑問を持ったそのチャネルから直接、購入前・購入後のあらゆる段階でタイムリーにカスタマーサポートへ連絡することができます。

また、モコバラは堅牢な保証ポリシーと手間のかからない返品プロセスを開示しています。顧客は購入した商品が間違いなく使えることへの安心感と、万が一の場合、簡単に返品することが可能であることを理解し、ブランドに対する信頼を高めています。

4. サステナビリティと倫理的な慣行

インドZ世代は、持続的可能性と倫理的慣行への意識を高く持っています。モコバラは、この関心に応え、環境に優しい素材や手法を採用し、サステナブルな旅の在り方を製品開発やマーケティング活動に組み込んでいます。

具体的には、リサイクル・ポリカーボネートや環境に配慮したファブリックなどの素材を製品に取り入れ、最小限のリサイクル可能なパッケージを使用しています。さらに、地域社会への支援や環境保全活動など、CSR活動にも積極的に取り組んでいます。これらの取り組みは、環境意識の高いオーディエンスからの支持を得て、社会的責任ある企業としてのイメージを高めています。

5. 動画を使ったデジタルコミュニケーション

モコバラのD2Cサイトでは、リールスタイルのショート縦動画が多く活用されています。

これらの動画はWhatmoreというアプリによって構築されており、コンバージョン率を10〜15%向上させる機能と言われ、インドEコマースのトレンドです。アプリによって高品質な動画コンテンツを表示させることができるため、訪問者を魅了させることができます。

動画をクリックすると、「SHOP NOW(今すぐ購入)」ボタンそして、製品のサムネイルや商品名とともに拡大されたショート動画が以下のように表示されます。

モコバラは、コンバージョン率を向上し、売上を最大化させるために、新たな技術導入とビジュアルコミュニケーションのアップデートを頻繁に実施しています。

モコバラの今後の展望

モコバラは、Amazon Global Sellingを通じて輸出販売も開始し、米国やUAEへの市場開拓も開始しています。

アグワル氏は「超成長よりも持続的成長を目指している。」と語っています。今後のロードマップとして、利益を増やし、その利益を事業に再投資していき、現在の年間売上18億ルピー(約34億円)から、今後5~6年で100億ルピー(約190億円)に到達することを目指しています。

「D2Cを起点としたブランド構築は長い道のりです。20年後、私と共同創業者のパワルは、もうモコバラにいないかもしれませんが、モコバラはブランドとして残らなければならない。」とアグラワル氏は話します(Your Storyより)。

インドでは、モコバラモデルブランドが次々と誕生しています。益々競争が激しくなる同業界において、モコバラがブランドポジションを維持し続けるためにどのようなマーケティング戦略を展開していくかが楽しみでなりません。

まとめ

D2Cを起点としたモコバラの成功は、製品・デザイン・機能・価格帯が共存する革新性、顧客中心マーケティング、オーディエンスへの深い理解を基礎にした一貫性あるデジタルコミュニケーションを組み合わせた戦略的マーケティングの証です。

インドのオーディエンスは、日本の変化スピードと異なる進化を遂げています。経済成長が後押ししているだけでなく、デジタルネイティブかつ英語話者である彼らはグローバルトレンドをインド特有のカルチャーと融合し新たな世界観を作り出しています。

ブランドはオーディエンスの生態そして変化を理解し、これにタイムリーに呼応するためことが必然となってきました。自社SNSやD2Cサイトの構築・運用はその第一歩と言えるでしょう。

著者

Storytelling LLP 創業者兼CEO。国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。