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2024年、日本は23万3,000人ものインド人旅行者を迎え入れ、2023年の16万6,394人から40%も増加しました。2025年もインバウンド観光は加速していくことが、インド人の消費者動向や現地のトレンドからも感じます。(JNTO調べ)
この急増は、インドの経済成長による海外旅行への興味関心の高まりだけでなく、元々日本の伝統、現代性、自然の美しさのユニークな融合に対しして興味を持っていたミレニアム世代に加えて、デジタル世代によるバイラルによって起きた、新たな日本の魅力を発見し、インバウンド旅行の増加を後押ししています。
東京、大阪といった活気ある街並みをはじめ、京都の静寂に包まれた寺院、豊かな文化体験まで、日本はインド人観光客に人気の旅行先となりつつあります。
本記事では、このトレンドの背景にある理由、旅行者の具体的なペルソナ、そしてインドから日本へのインバウンド観光の将来について、さらに詳しく解説していきます。
そもそも、インド人の海外旅行ブームが起きているのかを整理してみましょう。
インドの好景気と可処分所得の増加
インド経済の急速な成長は、インドのアウトバウンド旅行者数を大幅に増加させる重要な要素となっています。インドの一人当たり国民純所得は、2020-21会計年度の₹86,054 (約15万円) から2022-23会計年度には₹98,118 (約17万円) に増加し、約6.9%の年間成長率 (The outbox調べ) を反映しています。
これにより、インド人の可処分所得が増加しているため、ミドルクラス (中産階級) でも海外旅行のための支出が可能となってきています。2014年から2019年にかけて、海外出国者数は年平均成長率(CAGR)7.98%で伸びています(The Outbox調べ)
デジタルメディアの影響
最近ではデジタルメディアが、インド海外旅行者の思考プロセスを大きく変革してきました。Instagram、X、YouTubeなどのSNSが旅行先の選択に大きな影響を与え、多くの人々が海外へと出かけるきっかけとなっています。2023年上半期のインド人の海外旅行需要は、前年比13.73%増加しており、2019年上半期の12.28%の増加に続く成長を記録しています(The outbox調べ)。
航空接続の強化
航空接続のアクセシビリティがインド人の海外旅行を後押ししています。航空会社は新しいルートを導入し、直行便を増やしています。インド最大の航空会社であるIndiGo(以下、インディゴ)は、2021年に26路線だった国際線を、2025年3月までに約40路線に拡大する計画です (Enterprised Wire 調べ)。
日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)がインドから日本への直行便を提供しており、デリーと東京を結ぶ便があります。格安航空会社(LCC)であるスクートやエアアジアも、インドと日本を結ぶリーズナブルな便を提供しており、旅行時間と費用が削減され、日本がよりアクセスしやすくなっています(RealJapan調べ)。
こういった背景により、2024年にインド人は、UAE(590万人)、アメリカ(190万人)、タイ、シンガポールを中心に日本へ旅行する方が約23万3千人にものぼりました(JNTO調べ)。
日本を訪れているインド人旅行者は多岐にわたり、それぞれ異なる動機や影響を受けています。パンデミック後は特に、日本旅行者の属性は多様になってきており、ここからは具体的な、ペルソナについていくつか詳しく解説していきます。
ペルソナ1:富裕層や中間所得層のミレニアム世代
インド社会では、海外旅行が成功の象徴と見なされています。インドの文化特性上、経済的な豊かさの象徴として、海外旅行をすることは一つのプロセスでもあります。
また、ビジネスリーダーやIT業界のビジネスマンは、グローバルな視野を持つことを重要視しており、それが国際的な旅行機会の増加につながっています。
旅行好きな起業家Rashmi Chadha氏

金融系ビジネスマンのAbhijit Somvansh氏
アビジット・ソムバンシ氏は、RBL銀行のマーケティング、コミュニケーション、およびカスタマーサービス部門の責任者です。 彼のYoutube動画では、家族と共に訪れた日本での体験を紹介し、旅行の予算管理、費用の詳細、そして快適に旅をするための役立つヒントについて語っています。

チェンナイ出身の2児の母であり、過去5年間で65か国を家族で訪れています。
彼女は、異文化体験が子供たちの将来に役立つスキルと視野を育てると考えています。

昨年実際に日本を訪れたインフルエンサーの一人です。フィットネス、ファッション、美容、旅行に関するコンテンツで知られるデジタルクリエイターです。
スープリヤは、TedXスピーカーであり、2024年の「Fit Mom Influencer」に選ばれ、2014年には「ミセス・グルガオン」のタイトルを獲得しました。デリー首都圏(NCR)、チャンディーガル、ヒサールを拠点に、イベントのゲストリストを管理しながら、ライフスタイルに関するアドバイスを発信する影響力のある人物の一人です。

ペルソナ2:20代を中心とするZ世代
パンデミック後、 インドの若い世代で特に、物質的な財産だけでなく「体験」に価値を置くトレンドが起きています。
海外旅行を通した、新たな価値観の発見による自己成長やウェルネス、ワーケーションなど目的も多様化しています。Z世代の特徴として、ソロ(おひとり様)旅行の増加もあげられます。
旅行、成長、マインドセットに関するコンテンツを発信するZ世代のインフルエンサーです。彼女はYouTubeで80万人以上の登録者を持ち、ユニークな旅行スポットや役立つ旅行ハックを紹介しています。

インド在住社の肌感として、日本旅行について照会が増えたのは2024年に入ってからです。なぜ、今日本がこれほどインド人に注目を集めているのでしょうか。
SNSとブロガーの影響
ここまでご紹介したように、インフルエンサーやブロガーが詳細な旅行情報、旅程、そして穴場スポットを共有していることで、より多くのインド人が日本の豊かな文化遺産と現代的な魅力を探索するきっかけになっています。
アジェイ・パンディは、10年以上にわたり日本に在住しているインド人クリエイターで、異文化体験や詳細な旅行プラン、よくある質問への回答を含むコンテンツを発信しています。シッディ・バムネは、インド人観光客向けに、日本への旅行方法、必見スポット、おすすめの旅行プランに関する有益な情報を発信しており、インド人による日本に関する動画コンテンツの影響力は多大です。
さらに、ヒンディー語を話す日本人インフルエンサーも増えており、インド人に日本の文化やベジタリアン料理の紹介コンテンツなどもインバウンドを後押ししています。
インドのZ世代旅行者は、世界平均の40%を超える51%が旅行インフルエンサーのレビューに影響を受けています (YouGov調べ)。また、インドのZ世代とミレニアル世代の旅行者はInstagramは主要な情報源となっており、28%のZ世代が旅行のインスピレーションを得るために利用しています。(CollinsGroup調べ)
また、Booking.comの調査によれば、44%のZ世代が旅行の決定に際してソーシャルメディアのフィードを最も重要な情報源としています。(Mint調べ)
インド人観光客向けの日本ビザ緩和
日本政府がインド人向けのビザ申請手続きを簡素化したことにより、日本への旅行熱が一層高まっています。
2024年4月1日から、インド人観光客は「JAPAN eVISA」システムを通じて、観光目的の短期シングルエントリービザ(最大90日)を申請できるようになり、以前と比較してビザ取得の障壁が下がったことも一つ要因と言えるでしょう。
インド人向けのツアーパッケージやプロモーション
日本への観光客が急増していることをうけ、インドの旅行会社が日本向けの旅行パッケージを提供を開始しました。
JTBグローバルマーケティング&トラベルは、2024年にサンライズツアーの「富士箱根日帰りツアー」にベジタリアンおよびインド料理を好む旅行者に向けてターリミールを導入しました。このターリミールには、インド料理の本格的なフレーバーが詰まっており、日本を観光しながら故郷の味を楽しむことができます (Prtimes)。
Kesari Tours(インドの大手旅行会社)は、「ベスト・オブ・ジャパン」や「桜の季節の日本」などのツアーパッケージを提供しており、インド人や外国人に人気の日本の主要な観光スポットを訪れやすくなりました。
言語の壁を取り除くサポート
英語話者の少ない日本での言葉が通じないことによるトラブルを懸念するインド人も多いですが、フジワラ・ランゲージ・ツアー(ムンバイの日本語教育団体)では、日本でのヒンディー語ツアーやガイドのサービスを提供しています。
ビーガンベジタリアン向けレストランの増加
インドではベジタリアンが38%(約38億人)(World Atlas 調べ)を占めるため、海外旅行では食事が大きな課題です。しかし、日本でもビーガンやベジタリアン対応のレストランが増えており、インド人観光客にとって食事の選択肢が広がっています。
Shojin Vegan:日本各地に展開しており、動物性食品、にんにく、玉ねぎを使わない新鮮な季節料理を提供しています。このおかげで、インド人は肉や魚を中心にした日本料理も、この店で肉と魚なしに日本の味を味わうこともできます。
OKO Vegan Vegetarian Restaurant(大阪・心斎橋):たこ焼き、お好み焼き、餃子などをビーガン・ベジタリアン対応で楽しめるトレンディなレストラン。
Tokyo Bhavan(東京):本格的なインド料理を楽しめる人気スポットで、インド料理が寂しくなった時のベストスポット。
東京・京都・大阪の「ゴールデンルート」以外の認知度増加
こういった様々な要因を受けて、ゴールデンルートだけでなくそれ以外の地域にも興味を持ち始めています。
例えば、新潟は現代アートと伝統文化の融合が注目されており、「越後妻有アートトリエンナーレ」は地域コミュニティの活性化に貢献しています。白川郷、沖縄、北海道、奈良なども人気の観光地となっています。(The Times)
具体的なインド人観光客の訪問データは限られていますが、インド人の海外旅行者数全体の増加と、旅行の目的や目的地の多様化が日本のインバウンド観光の増加を高めていると考えられます。
日本へのインド人観光客の増加は、複数の要因が重なって起きています。インフルエンサーやブロガーが発信する詳細な旅行ガイドや日本の魅力が、インド人観光客を刺激しています。また、2024年から導入されたビザ緩和措置や、アニメやマンガといった日本のポップカルチャーの人気を皮切りに、日本独自の文化への関心を高めています。
日本とインドの文化的な架け橋が強まることで、今後も日本へのインド人旅行者は増加し続けると予測されます。
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