OOHとはOut-of-home(家の外)の略称で、屋外広告を指しています。具体的には、高速道路沿いの看板広告や電車の中吊り広告などがあげられます。
OOH広告は、ブランド認知獲得の手法として有名ブランドが実施する戦術の一つですが、近年、オンラインとオフラインの広告施策を融合させた、OMOマーケティングが普及しています。これに伴い、OOH広告からデジタルプラットフォームへ誘導する手法や、OOH広告を活用したデジタルUGC(ユーザー・ジェネレート・コンテンツ)の促進によって、認知度だけでなくエンゲージメント獲得にも寄与することで、効果を最大化し、OOH広告は新たな価値を見出すようになっています。
インドではコロナ後の2021年以降、OOH広告の市場規模は年率20%以上の成長を続けており、世界平均が約10%成長であることと比べても、屈指の成長具合を見せています。
近年インドの傾向として、OOH広告におけるデジタル看板広告の割合が増加しています。その規模は、市場全体の約25%の収益を占めています。また、オーディエンスの目を引くイノベーティブなOOH広告などもトレンドです。
本記事では、日本企業の皆さまがインドでOOH広告を検討する際、少しでも具体的なイメージを持てるよういくつかのブランドのOOH事例をご紹介します。
ここからは、弊社のヘッドオフィスが位置する北インドのグルガオンで見られるOOH広告をご紹介していきます。
グルガオンは、近年開発の進むデリー近郊都市で、2021年のデータによると人口は約110万人に達しています。中心地にはオフィスビルが立ち並び、Google(グーグル)、Microsoft(マイクロソフト)、Facebook(フェイスブック)、BMW(ビーエムダブリュー)などの多くの外資系企業が拠点を構えています。また、住宅地には新興の高層マンションやゲーテッドコミュニティが広がり、居住者の多くはIT業界の専門職や国際ビジネスに従事する駐在員です。都市インフラも充実しており、近年は大規模なショッピングモールや5つ星ホテルも増加しており、生活の質も向上しています。
グルガオン中心地にあるMGロード沿いに位置する駅(メトロステーション)に掲載されており、駅の利用者だけでなく車や2輪ドライバーが目にします。また(写真右側)夜になると文字が光り、より視認性が高まります。
駅ビルが併設しており、多くの利用者が広告を目にすることになります。当駅におけるOOH広告は、ほとんどSBIのもので埋め尽くされていました。
改札から出口へ向かう導線に設置されており人目を引くOOH広告です。QRコードを大きく記載することで、通行人が容易にアプリをダウンロードできるような工夫が施されています。
こちらは改札を出て正面にある壁に掲示されていた広告です。先ほどと同様に多くの人々の導線上にあり人目を引きやすいです。インドは10月末にDiwaliという祝日があり、多くの人がプレゼントを行うため、この広告でも「Festive Gifting(お祝いのギフトに)」という点が強調されています。
デリーやグルガオンでは、バスが主要な移動手段として広く利用されており、1日あたり400万人以上の乗客が利用しています。利用者は主に通勤を目的としたサラリーマンや学生、労働者層が中心で、特に低所得層や中所得層の人々にとって、バスは最も手頃な公共交通機関として重要な役割を果たしています。また、特定のルートでは、ビジネスパークやIT企業が集中するエリアへ通う若いITプロフェッショナルも多く利用しており、通勤時間帯は非常に混雑します。
バス停はオフィス街から住宅街まで様々な場所にあるため、バスの利用者のみならず、歩行者、幹線道路のドライバーなど巾井広居セグメントにアプローチすることが可能です。
こちらは幹線道路沿いのバス停です。街中には建物を建設中の工事現場が多くあり、バス停の利用者も多いのかも知れません。
インドではオートリキシャと言われる、安価な運賃で利用できる3輪タクシーが広く普及しています。都市部では、初乗り運賃が20〜30インドルピーと非常に手頃で、中・短距離の移動に多く利用されています。利用者層は主に低~中所得層の通勤者、学生、地元住民で、特にラッシュアワーには通勤手段として需要が高まります。さらに、観光客も短距離移動や市内観光にオートリキシャを活用することが多く、手軽で便利な交通手段として知られています。また、オートリキシャの背面には写真のように広告が掲載されており、企業が地元消費者にリーチするための広告媒体としても活用されています。
少し変わった取り組みとして、スウェーデン発、大手家具メーカーのIKEA(イケア)は、マーケティングの一環として、自社のブランドカラーに塗った電動オートリキシャを、荷物の配達や来店客の移動手段として使うキャンペーンを行いました。
一方で、一般的なオートリキシャにおいては、広告が剥がれたりはげたりしていることが多いため、自社のブランドイメージを損ねないように注意する費用があります。
大通り沿いに立つ巨大なビルボードは、インドにおいて最も代表的なOOH広告です。下のグラフからは、ビルボード広告にかけられる金額規模が、インドOOH広告マーケット全体の過半数を占めることが分かります。
グルガオンは近年多くの開発プロジェクトが行われており、平均不動産価格は過去5年間10~12%で成長しています。そのためか、街中では多くの不動産広告が掲載されています。こちらのビルボード広告では、Alban(アルバン)という大型タワーマンションを宣伝していました。
Godrej(ゴドレジ)は1897年に設立された、インドを代表するというコングロマリット企業で、年間売上は約1000億ドルを超えます。不動産以外にも消費財、産業機械など幅広い産業で国内外の市場シェアを誇ります。
こちらのOOH広告は、不動産広告とは思えない涼しげでスタイリッシュな広告が印象的です。後程紹介しますが、ビルボード広告以外のOOH広告でも、このデザインを統一していたため、目に留まる機会が多かったです。
Godrejのブランド戦略について興味のある方は、こちらのブログもあわせてお読みください。
ブランディングの参考にしたいインドコーポレートウェブサイト5選
インドではホンダやスズキなど、多くの日本車が普及しています。インド国内販売台数において、乗用車ではスズキが市場シェア1位、二輪車ではホンダが市場シェア2位となっています。
写真のOOH広告では、製品の写真が大きく掲載されており、運転中のドライバーでも認識しやすい広告です。
中心部を少し離れた幹線道路沿いのOOH広告です。Apollo24/7という薬局チェーン店によるもので、四角の枠を飛び出した「19分」という部分が、ドライバー達に薬局の場所を分かりやすく伝えています。インドでは、中心部以外のエリアでは道路沿いの店舗が見つけにくいことがあり、このような工夫で、ドライバーに立ち寄るきっかけを与える効果があります。
こちらのOOH広告はSwiggyという食事の速達サービスの看板です。白の余白と、ブランドカラーであるオレンジで構成されたミニマルなデザインが、スタイリッシュで人目を引きます。文字情報も最小限にされており、SNSのメッセージのような文章デザインは、思わず読んでしまいたくなるような楽し気な雰囲気です。
道路沿いを走る高架鉄道の柱には、広告が大量に設置されています。このOOH広告では、車道沿い300~500mほどにわたり同じ広告が掲載され、夜になると光るデジタル看板であることが多いです。また鉄道が通るような場所であるため、人と車の交通量が多く、人目に留まりやすい主要なOOH広告の一つと言えます。企業によっては柱のみでなく、駅壁の広告も掲載し、一帯を自社のOOH広告で占領している場合もあります。
歩道橋は中心地のオフィス街などを通る、幹線道路にかかっていることが多く、日本の歩道橋に比べると長く大きいです。
こちらは中心地のオフィス街にあるOOH広告です。冒頭で説明したように、Google(グーグル)やMicrosoft(マイクロソフト)などの大手外資系企業がオフィスを構えており、高所得者層が多いです。高級腕時計ブランドによる広告は、彼らをターゲットにしたものだと考えられます。
こちらのOOH広告も同様に、中心地のオフィス街に掲示されています。業務効率化サービスの広告であるため、周辺で働くビジネスマンをターゲットにしたものであると分かります。
こちらは中心街から少し外れた、交差点の歩道橋です。エアテルという大手キャリアの広告が掲載されています。
最初はアンビエンスモールというショッピングモール内にあったOOH広告です。グルガオンで最大のショッピングモールであり、曜日を問わず常に多くの人で栄えています。アパレルやレストラン、映画館やゲームセンターなど様々なサービスが揃っています。写真のように、エスカレータに設置された広告や柱に設置されたデジタル広告がありました。
エスカレータの壁面にもOOH広告が記載されていました。写真の対面にも同様のエスカレータがあり、立ち止まっている際に目に留まる広告です。
こちらのOOH広告は柱の周り前面に設置されたデジタル広告で、様々な企業の広告が動画で流れています。
次はサウスポイントモールというショッピングモール内にあったOOH広告です。ここは日本人が多く住むエリアにあるため、多くの日本人が集います。
こちらの外壁のOOH広告は公文のものです。グルガオンのショッピングモールは、テナントが外壁に大々的に広告を掲示していることがよくあります。
こちらは先ほどご紹介したゴドレジの広告です。
次はグルガオン市内で最も栄えているサイバーハブというエリアです。前述した中心地のオフィス街のことで、サイバーシティは、DLFという不動産ディベロッパーによってデザインされた125エーカーに及ぶ総合ビジネス地区と約1,500万平方フィートの商業スペースです。
平日には、20代後半から40代のビジネスマンやプロフェッショナルが、夕食や仕事後のリフレッシュを求めて訪れます。一方、休日にはファミリー層や若いカップル、友人グループが多く、ショッピングや食事、さらにはポップアップイベントや音楽イベントを楽しむ姿が見られます。さらに、ユニクロやココ壱番屋といった日本ブランドも出店しており、日本人の駐在員も足を運ぶ人気のスポットとなっています。
敷地内には多くのOOH広告掲示場所があります。写真を撮った期間は、アクシスバンクの広告が一体に掲載されていました。
こちらは期間限定で置かれていた日産のOOH広告です。新型モデルの発売にあたってのキャンペーンで、中央広場にコンテナがおいてあり、中を除くと新製品の紹介ビデオが見れるというユニークな広告でした。
今回はインド国内で、様々な場所・種類のOOH広告をご紹介しました。企業のマーケティング戦略や、インドでOOH広告を実施するイメージの手助けになれていれば幸いです。冒頭で紹介した統計によると、インドのOOH広告は2025年以降も10%以上の市場成長が見込まれています。これからインドへ進出しようと考えている企業の皆様は、是非一度OOH広告に関してご検討して見て下さい。
また、場所ごとの広告費用や他社の成功事例など、より深い情報をお求めの方は是非一度Storytellingまでご連絡ください。カジュアルなご相談やリサーチ業務から、インドのマーケティングプロポーザル作成のお手伝いなど、幅広い支援をさせていただいております。
2019年に設立されたStorytelling LLPは、インドグルガオンを本社に置く日系企業です。
企業様のビジネスにおける強みを理解し、それぞれのユニークなストーリーを世に送り出すことをミッションとしています。現地における市場調査をもとに、カスタマイズされたデジタルブランディング、デジタルマーケティング戦略を通じて、企業の持続的な成長を支援します。
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