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インド全土のオンラインゲーム市場は、2022年には約1350億インドルピーと評価され、パンデミックを皮切りに拡大傾向にあります。2025年には年間平均成長率19%で成長し、約2,310億インドルピーを超えると予測されており、企業とのタイアップやプロモーションもトレンドとなり、ゲームを普段プレイしない人々にとっても身近な存在になりつつあります。
マーケティング戦略のひとつとしてゲーム性のあるプロモーションでブランド認知度を獲得するインドの企業も存在しており、もはや娯楽のためだけではなく企業も経営戦略として賢く活用するツールへと変化を遂げています。そんな中、多くのインド人を魅了したPUBGが復活したというニュースを受け、注目を集めています。
ここでは、インドにおけるPUBGの歴史的変遷をまとめ、インドのゲーム産業の拡大とゲームを活用したマーケティング事例をご紹介します。
バトルロイヤルシューティングゲーム PUBG は、世界のEスポーツ大会でも高い人気を誇るゲームです。アメリカのゲームプラットフォームSteamにおける、同時接続ユーザー320万人という記録は、PUBGが世界配信された2017年から6年が経過した現在も破られていません。「最も早く1億ドルの収益をあげたSteamアーリーアクセスゲーム」の他7つのギネス世界記録を樹立し、バトルロイヤルゲームのパイオニアとして位置付けられました。
PUBGがバトルロイヤルゲームのパイオニアとなり、後続のゲームが全世界で続々と開発される中、インドでは現在もPUBGは他のゲームとは一線を画す存在として知られています。
ゲーム配信開始から現在(2023年7月)まで、配信停止と復活を2度も繰り返し、熱狂的なファンを翻弄してきました。2023年5月に、約1年の配信停止期間を経てインド市場に舞い戻ったPUBGがファンの間で話題となっています。
2017年 | インドにPUBGが上陸
インドでPUBGのユーザーは増加し続け、2019年が終わる頃には世界で最も多くのユーザー数を誇る国として重要なマーケットへと成長しました。
Sensor Towerのレポートによると、PUBGのインストール数はインドだけで1億7500万を超え、全世界のインストール数の24%を占めたと報告されています。プレイヤーの平均年齢は16歳から25歳で、国全体の平均年齢も若く、経済成長の勢いもあるインドにおいてPUBGの権威獲得は必至でした。
2020年 | 国家安全保障上の理由でインドにおけるPUBGの配信停止
しかしながら、インド政府により国家安全保証上の懸念で2020年9月にPUBGのインドでのサービスは禁止され、社会現象級の人気に激震が走ります。
PUBGの開発会社、Krafton社は中国のTencent社をパブリッシャーとし、インドでサービスを展開していました。インドと中国の国交については、協力関係や緊張関係などさまざまな意見がある中で、これまでにも幾つもの中国製のアプリのインドにおける使用禁止が発表されていました。
2021年 | 約1年の沈黙を破り、パブリッシャーを変えてインド版PUBGの配信が開始された
2022年 | インド版PUBG、BGMIも配信停止に
BGMIとしてインド市場に戻ったのも束の間、IT法第69A条によりインド政府により配信停止が求められました。Tencent社との関係断ち切りがされたはずが、中国のサーバーとユーザーデータを共有していたとされています。
配信開始から約1年、2022年7月第1週に1億人のユーザー数を突破し、当時のインドで最も人気のあるバトルロイヤルゲームでした。
2023年 | ファンの熱い声援に応え、BGMIがインド市場に再参入
2023年5月、BGMIを開発したKrafton社は、同ゲームがAndroidとiOSプラットフォームでインド市場に再参入することを明らかにしました。
インドEスポーツ連盟のディレクターであり、アジアEスポーツ連盟(AESF)の副会長でもあるLokesh Suji氏は、「BGMIが10ヶ月の休止期間を経て待望の復活を遂げたことは、わが国のEスポーツコミュニティにとって待望の後押しとなる」と話しています。
このように、PUBG(BGMI)のインド市場への再参入は、ゲームファンだけでなく、拡大するゲーム市場に商機を見出すビジネスマンにとってもホットトピックであったと言えるでしょう。
インドのゲーム市場の成長可能性に外資企業も注目
国内のゲーム人口は2022年の4億2000万人から2023年には4億5000万人に拡大し、2025年には5億人に達するという報告も発表されており、およそ3人に1人のインド人がゲームをプレイしていることになります。
また、特に注目が集まるのはモバイルゲームで、2025年までに市場規模は50億米ドルに達すると予想されています。PUBGがインドでローンチされた2017年から2020年にかけて年間平均成長率38%で拡大しました。これに対し中国は年8%、米国は10%。膨大な人口とパンデミックによるサービスのオンライン化、モバイルの浸透といった要因が重なり、インドのゲーム市場は成長を遂げています。
オンラインスクールや在宅勤務が原則となったインドのパンデミック渦で、人々の新しい娯楽としてオンラインゲームが浸透しました。多くのインド人がPUBGに熱狂し、中にはゲームに熱中しすぎて食事を忘れ「PUBG中毒死」する10代がニュースになるほどの社会現象となりました。
インドのモバイル市場の拡大も後ろ盾となり、PUBGは常軌を逸するトレンドとなりました。エコノミック・タイムズ紙によると、インドは世界的に見ても手頃な価格でモバイルデータを利用でき、1ギガバイト(GB)の平均コストは、英国が6.66米ドル、米国が12.37米ドルであるのに対し、インドでは0.26米ドルと言われています。
韓国メディアKorea Herald によれば、サムスンはスマートフォン製造の一部をベトナムや他の数カ国からインドに移すことを計画しており、インドで400億米ドル(約400億円)以上の端末を製造する意向が発表されています。
ARや5Gなどの、現在よりもハイスペックな機能とデータ通信量に対応できるインドのモバイル需要見込みに対応するために、市況を読んだ経営戦略が立てられています。
インドのオンライン旅行予約アプリ Goibibo は、プロクリケットチーム・ムンバイインディアンスとタイアップし、試合中にGoibiboアプリを開いておくと、アプリ内で使えるポイントGoCashが貯まるキャンペーンをローンチしました。
得点数によって、アプリ内で付与されるポイントも増加するシステムになっており、試合を楽しみながら試合後の旅行プランまで楽しみになるようなエンターテイメントを提供しています。
サマリー
インドのゲーム人口は増加傾向にあり、パンデミックやモバイルの浸透といった要因が重なり、2025年には3人に1人がゲームにアクティブである市場へと成長すると予測されています。絶大な人気を誇っているPUBGも度重なるサービス停止の圧力に屈することなく、巨大市場を抑えるために試行錯誤を続け2023年5月にインド市場へと戻ってきました。
普段利用する生活アプリでも、ポイント獲得のためにゲーム性のあるプロモーションが取り入れられ始めています。マクロで拡大する市況を捉え、企業の経営戦略やマーケティング戦略に迅速に反映する柔軟性が求められます。
Marina Ogino
2019年、獨協大学経済学部卒業。在学中、チュラロンコン大学に一年間留学しタイ語を習得。タイの動画制作会社と農業ベンチャーでインターンシップを経て、株式会社日本農業に入社。海外営業部に所属し、駐在中は事務所の立ち上げ、営業・マーケティングを担当。2022年1月からインドに移住し、同年6月にSTORYTELLING LLPにGMとして入社。日本語、タイ語、英語話者。