インドや中東諸国では、ナラティブ(物語)を大切にした文化が基盤にあり、政治統治でもその力は活用されています。インドは特に、多様な文化に富んでおり、地元の伝統や祭り、価値観を反映したストーリーテリングは、視聴者の共感を得やすいです。共感を得やすい、ストーリーテリングによって、オーディエンスと繋がりを生み出し、より強い絆を築き、商品やサービスを自然に選んでもらうマーケティングがトレンドになっています。
ここでは、ストーリーテリングの基本から、ストーリーテリングの具体的手法、インド事例をご紹介していきます。
ストーリーテリングとは
「ストーリーテリング・マーケティング」とは、ブランドのメッセージや価値観、提供物をターゲット・オーディエンスに伝えるために、ストーリーテリングのテクニックやナラティブを活用するマーケティングのアプローチです。
「ナラティブ・マーケティング」や「ブランド・ストーリーテリング」とも呼ばれます。
オーディエンスを惹きつけ、共鳴させ、感情的なレベルで結びつけるような説得力のあるストーリーを発信することによって、ブランドメッセージの認知拡大、エンゲージメントを高めるなど多くの効果が見込めると考えられています。
従来型の単に製品の特徴やベネフィットを強調するプッシュ型マーケティングと比べ、近年、ストーリーテリングに注目が集まる理由があります。それは、ブランドへの深い理解と感情的な結びつきを生み出す心理的・行動的変化と共に購買意欲をもたらすプル型マーケティングが、SNSに慣れ親しむ現代のオーディエンスには特に適しているという背景があります。
なぜ今、ストーリーテリング?
オーディエンスの記憶に刻む
膨大なデジタルコンテンツが溢れるインド市場において、ブランドロゴや商品をオーディエンスの記憶に残すことは容易ではありません。オーディエンスの心に響く、記憶に残る明確なブランド・アイデンティティを作り上げるためには、「ブランドの伝えたいメッセージ」を「説得力のあるストーリー」に織り込むことで、より強く記憶に残すことが可能です。
スタンフォード大学ビジネススクールの研究では、人は事実だけを記憶するよりもストーリーで共有された場合、22倍も記憶が留まるというデータも発表されています。
ストーリーはシェアしたくなる
他社との差別化と競争優位性
複雑化する商品やサービス説明をシンプルに
「ストーリーテリングの要諦はシンプル化にある」
私たちストーリーテリングチームでは、そのように考えています。複雑な製品やサービス、コンセプトをデジタル上で伝えることが求められるデジタルマーケターは、多様な情報を単純化し、親しみやすく理解しやすいアイデア、伝達方法として咀嚼し、結果、オーディエンスが理解しやすいメッセージへと生まれ変わらせ、その効果を検証していきます。
ストーリーテリングのフレームワーク
ここからは、ストーリーテリングマーケティングで使われる主な手法についてご紹介します。
中心人物やヒーローの登場
複数の感情と、感情の変化がストーリーライン
ブランドメッセージの一貫性
動画コンテンツ
ストーリーテリング施策で有効なコンテンツタイプの一つが動画です。
映像は、登場人物の表情、身振り手振り、色彩、テロップやナレーションの声、音楽など複数の要素の組み合わせによって、複雑な情報を簡潔かつ効果的に伝えることができ、短時間に多くの情報を凝縮できることが可能です。視覚と聴覚の両方へ働きかけることによって、記事やイメージといった他のコンテンツタイプに比べてよりオーディエンスへ没入感のある体験を提供することが可能です。ストーリーに夢中になり、没入していくその瞬間が、オーディエンスとブランドが繋がれる瞬間です。
スマホや動画プラットフォームの発達によって、動画コンテンツはこれまで以上にアクセスしやすくなっており、世界中の多様なオーディエンスにストーリーを届けることができる優位性のあるストーリーテリング手法を是非、活用していただきたいです。
インフルエンサーマーケティング
インフルエンサーのような影響力のある個人やコンテンツクリエイターがストーリーテリングの手法を活用してブランドの在り方や製品・サービスを語る手法は、適切なオーディエンスと強く繋がるストーリーテリングマーケティングの一つです。
インドでは、インフルエンサーが与えるオーディエンスへの影響力は高く、同じカルチャーや価値観、興味・関心を持つ尊敬するまたは、信頼できるインフルエンサーが伝える手法は、ブランドがオーディエンスに直接伝えるよりも効果が高いと感じます。
実際に、マーケティング担当者の合計71%が、インフルエンサーマーケティングからの顧客やトラフィックの質は、他のソースと比較して優れていることに同意しており、コンバージョンを高めることを実感しています(Smart Insight調べ)。
特に、海外ブランドやこれまでに市場に存在していない新たな製品やサービスの場合に効果的な手法です。
ストーリーテリング|インド事例2選
事例|Tata Tea (タタ・ティー)
キャンペーンの背景
2008年から始まった「Jaago Re」(目覚めよ)」キャンペーンの大きな狙いはインド人の積極的な市民活動の参画を奨励をすることでした。無意識に常態化しているインドの社会課題である汚職、ジェンダー不平等、投票への無関心など、インド社会に蔓延するさまざまな社会問題に対して、オーディエンスの意識を高め、社会変革を推進することにありました。
このキャンペーンでは、ストーリーテリングを主な戦略として活用し、示唆に富み、感情を揺さぶる一連のストーリー動画が企画されました。感情的なレベルでオーディエンスと繋がるために、子供や家族といった親しみのある登場人物、自宅の居間や学校のオーディトリウム(ホール)など誰もが親しみを感じるような場所を使用し、日常的な環境の中でストーリーを描いています。
ここでは、2023年にローンチされた最新のストーリー動画をご紹介します。
Tata Tea Jaago Re - To fight Climate Change - Nursery Rhymes(気候変動と闘うために - 童謡編
社会とブランドへのインパクト
「Tata Tea Jaago Re – To fight Climate Change – Nursery Rhymes(気候変動と闘うために – 童謡編)」は、Youtubeへ投稿されてから1ヶ月で46万回の再生を記録しました。
感情を揺さぶるストーリーがオーディエンスの共感を呼び、多くのインド人の中で反響となり、環境問題意識や社会的関心ごとにまで引きあげる効果をもたらしました。気候変動についての会話が意識とエンゲージメントの向上に繋がったとされています。
キャンペーンのストーリーテリング施策は波及効果を生み、個人やコミュニティが積極的な社会変革を起こし、支援するきっかけとなり、インド全土で市民主導の運動やイニシアティブが形成されることに貢献しました。
本キャンペーンは、タタ・ティーを社会的責任と目的主導の企業として位置づけることにも貢献し、オーディエンスへのブランドのパーパス浸透にも役立ちました。より良い社会づくりに積極的に取り組むブランドを評価する消費者の間で、タタ・ティーのブランドレピュテーションと信用が高まりました。
説得力のある物語を活用することで、このキャンペーンは認知度を高め、社会変革を推進し、タタ・ティーを積極的な市民活動と社会的責任を担うブランドとして確立することに成功したと言えます。
事例|Paytm(ペイティーエム)
ペイティーエムはインドの電子商取引決済システムおよび金融テック企業です。当初モバイルチャージと請求書決済のプラットフォームとしてスタートしましたが、その後サービスを拡大し、モバイルチャージ、請求書支払い、オンラインショッピング、チケット予約、送金など幅広いサービスを提供する包括的なデジタル決済エコシステムへと成長、数百万人の顧客を保有しています。
都市部では、パパママショップと言われる個人所有の露天でもペイティーエムを使用することができ、インドペイメント業界のゲームチェンジャーとなりました。
ペイティーエムは、2021年、ジェンダー格差と金融リテラシーの相関性を社会実験として取り上げストーリー動画をローンチしたことで話題となりました。
キャンペーンの背景
ストーリーテリング動画「The Divide(分断)- 社会実験」
モデレーターは、金銭的自立とリテラシーに関するさまざまな質問を投げかけます。Yesであれば一歩前進、Noであれば一歩後退するというルールによって、ジェンダーと金融リテラシーの相関性があるかについて視覚的に実証します。
- 光熱費の支払いをしたことがありますか?
- 金の現在価格を知っていますか?
- 給与の内訳を理解していますか?
- コンサルタントを使わずに自動車を自分で購入したことがありますか?
- 保険の契約を自己名義でしたことがありますか?
20を超えるいくつもの質問に回答していく中で、男女差による金融リテラシーの格差が、視覚的にまざまざと現れました。男女の間に生まれた大きなギャップに誰もがショックを隠せず、戸惑っている表情が印象的です。
社会とブランドへのインパクト
Paytmのストーリービデオは、2年間でYoutube上で273万回の視聴がされ、多くのオーディエンスがこの男女格差による経済的自立、金融リテラシーの偏りが社会課題であると認識し、目を向けるきっかけとなりました。
また、インドのペイメントアプリケーションは激戦市場となるなか、このストーリービデオによって業界のユーザーが抱える社会課題を顕在化させ、意識変容の第一歩を踏み出すきっかけを作ったことで、業界のリーダーとしてインド市場において、人々の記憶に残るブランドポジションを確率したと言えるでしょう。
サマリー
デジタルマーケティングにおいて、ストーリーテリングのテクニックを活用することで、ブランドは効果的にオーディエンスと繋がり、ブランドロイヤリティを高め、ビジネスの成長を促進することが可能です。
ストーリーには、ブランドを記憶に残し、より親しみやすく、感情的にインパクトを残す力があります。それだけでなく、ブランドは他社との差別化をオーディエンスへわかりやすく示し、より深いレベルで惹きつけ、強い感情的なつながりを築くことができるでしょう。
当社ストーリーテリングでは、ストーリーテリングマーケティングの一貫として、ストーリー動画の企画・制作、インド人インフルエンサーを活用したローカル浸透型ストーリーテリングなどのサービスを提供しています。ご興味がございましたら、お気軽にご連絡ください。
著者
Suguri Mikami
Storytelling LLP 創業者兼CEO。国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。