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2024年はインドの注目度がますます高まり、インド市場への進出を検討する企業が増加しています。
一方で、「インド展開のデジタルマーケティング戦略を作成しなければならないが、どこからとりかかろうか」「全く知らないインド市場の、ターゲット像が見えない」「とりあえずデスクトップサーチしてみたが、インドでの成功事例やトレンドに関する情報が少なくてこまっている」そんな課題にぶつかっているというご相談もお受けします。
ここでは、インドのコーポレートブランディングという切り口から現地のウェブサイトデザインのトレンドをご紹介します。
コーポレートウェブサイトの役割
インドでは、ブランディング・マーケティング戦略を企業がより重要視する傾向にあります。
日本のように簡単によい品質やサービスに出会える体験が少ないインドでは、どこかでブランド名やロゴを見たことがある、調べたらしっかりしたウェブサイトがあって信頼できる、ソーシャルメディアが頻繁に更新されていて、今も実在しているブランドであると確信できる、といった視認性における体験を購買プロセスにおける重要な価値基準としている傾向があります。
ですから、品質がよくても、一般的に知られていないブランドは、購買の検討フェーズの意思決定プロセスにおいて、厳しい評価をされることは間違いなく、こういったインド人の背景を理解するインド企業は、ブランディングやマーケティングに予算を取り、認知度を向上させる活動や、ブランドのユニークさを理解してもらう活動に積極的です。
また、インド国内においても異なる言語と文化が入り交じる複雑でダイバースな環境にあることから、ビジュアルを活用したコミュニケーションやストーリーテリングは重要視されています。
Getty Imagesが行った調査によると、アジア太平洋地域に住む80%の消費者が、美しいビジュアルを使ったコミュニケーションを期待しています。Eexploding Topicsが実施した調査では、ブランドの第一印象の55%は視覚的な要素であると言われています。
インド最大の民間企業であるリライアンス・インダストリーズの会長であるムケシュ・アンバニは「力強いストーリーテリングは、強力なブランドを築く」と述べており、文脈やストーリー性を大切にしたブランディングにも重きをおいている傾向にあります。
こういった背景より、まだ認知されていない日本ブランドの印象を正しく、より良いポジショニングで捉えてもらうためには、視覚訴求力を駆使したコーポレートウェブサイトは独自のブランドポジションを獲得する大切なコミュニケーションツールとなっています。
ここからは、インドのコーポレートブランディングという切り口から現地のウェブサイトデザインのトレンドをご紹介します。
インド、コーポレートウェブサイト 5選
ここからは、財閥系、テック、製造、スタートアップ、などいくつかの産業において、ビジュアルコミュニケーションに卓越しているインド企業のコーポレートウェブサイトを5つご紹介します。是非、ご参考にしてみてください。
Godrej(以下、ゴドレジ)は、1887年に設立されたインドの財閥系企業グループで、家電から不動産、化粧品、家具に至るまで多岐にわたる事業を展開しています。年間売上高が約1,000億ドルを超える大規模な企業で、インド国内だけでなく国際的にも強い存在感を持っています。
コーポレートブランディングにおいては、「信頼性」と「品質」を中心に据えています。特に中流から上流層をターゲットに、高品質で信頼性の高い製品を提供することに注力しています。革新性や持続可能性も重視し、先進的な技術やデザインを取り入れることで、業界内での差別化を図っています。
ゴドレジのウェブサイトデザインの一番の特徴はカラフルな色使いです。カラーバックに企業の主要な製品やサービスが視覚的に強調されており、新規性を感じさせるデザインです。
一方で、シャープな四角形のレイアウトや規則的なコンテンツの配置により、どことなく高級感や品を感じることができます。
これらのウェブサイトデザインからは、革新性と信頼性を重視するコーポレートブランディングとの一致がうかがえます。
文字情報は、必要最小限に押さえられている点が印象的です。グローバルナビゲーションの表示項目も少なく、各事業の詳細やその他の細かい内容については、遷移先のページで確認できる仕様です。サイト内を行ったり来たりする必要がないので、グループの全体像を理解しやすい構成です。
一方で、企業の価値観を反映している項目は、内容が濃くなっているように感じます。
例えば、サステナビリティのセクションでは、環境保護や社会貢献に対する具体的な取り組みが詳しく説明されており、企業の持続可能性へのコミットメントが強調されています。
全体として、Godrejのウェブサイトデザインは、洗練されたデザインと整理された情報により、ブランドの信頼性と品質が強調されています。
Zoho Corporation(以下ゾーホー)は、1996年に設立されたインドのソフトウェア企業で、主にビジネス向けのSaaS(Software as a Service)製品を提供しています。ゾーホーの本社はタミルナードゥ州のチェンナイに位置し、世界中に複数のオフィスを展開しています。企業規模としては、数千人の社員を擁し、数百万のユーザーにサービスを提供している大規模な企業です。業績面では、年間数億ドルの売上を上げており、急成長を遂げています。
コーポレートブランディングにおいて、ゾーホーは「独立性」と「革新性」を強調しています。外部の資本や公開市場から独立していることを自らの強みとし、顧客に対して独自のビジネスモデルとサービスを提供しています。この独立性をもとに、ゾーホーは高品質でコストパフォーマンスの良いソフトウェアを提供し、中小企業から大企業まで幅広い顧客層に支持されています。また、革新性を追求し、定期的に新しい機能や製品を追加している点もブランディングの一環です。
ウェブサイトは、ファーストビューで訪問者を引き込むようなデザインです。シックな黒板のような背景に、それぞれ異なる特徴を持つ男女3人が配され、ミニマルで洗練されたデザインが印象的です。この質素な構成が、サイト全体にモダンで落ち着いた雰囲気を与えています。それだけではなく、色鮮やかなブランドロゴがビジュアルに生き生きとした統一感をもたらし、単調さを回避しています。
サイト全体を通じても、規則性と遊び心のバランスが取れている印象です。すべてのサービスが、統一されたレイアウトの中で最小限に説明されています。利用者は短時間で全体像を理解できるため、ストレスなく閲覧することが可能です。一方で、サイト内の要所要所で見られるカラフルな色遣いやピクトグラムの使用が、デザインに温かみを加えています。
ゾーホーのウェブサイトデザインは、単調なレイアウトと飽きない色使いで、訪問者に視覚的な魅力とともに、信頼性を与えるブランド体験を提供しています。
ちなみにサイトのファーストビューに写っている3人は左から順に、Chief Information Officer(チーフ・インフォメーション・オフィサー)のSaravanan Muthia(サラヴァナン・ムシア)、Director of Product Management(プロダクトマネージメント・ダイレクター)のRajesh Ganesan(ラジェシュ・ガネサン)、Radha Vembu(ラダ・ヴェンブ)です。3人とも20年以上会社に勤めています。
またゾーホーには下の写真のように、社員について紹介したウェブサイトもあります。
indal Steel & Power (以下ジンダル)は、1952年に設立されたインドの大手鉄鋼・エネルギー企業で、世界中に存在感を持つインフラストラクチャーの巨人です。ジンダルは、鉄鋼、発電、鉱業、そしてインフラ建設において多岐にわたる事業を展開しています。企業規模としては、国内外に数万人の従業員を抱え、年間売上高は数十億ドルに上ります。ジンダルは、インド国内でトップクラスの鉄鋼生産能力を持ち、その影響力はインド国内にとどまらず、オーストラリアやアフリカなど国際市場にも広がっています。
コーポレートブランディングにおいて、ジンダルは「革新と持続可能性」をタグラインにしています。ジンダルは、インド経済の基盤を支える存在であることを強調しつつ、同時にエコフレンドリーな技術や持続可能な開発への取り組みを強調しています。
こうしたブランディングは、同社が革新を追求しつつも、環境への配慮を欠かさない姿勢を強調するものです。また、ジンダルは、品質と信頼性を重視する姿勢を前面に出し、国内外の顧客に対して堅実で信頼のおけるパートナーであることを訴求しています。
ジンダルのウェブサイトデザインは、訪れた瞬間にその強いメッセージ性と視覚的なインパクトが伝わってきます。ファーストビューの「The Steel of India」や、About Usページで表示されるインド国旗からは、インドの経済基盤としての重要な役割を果たす同社の誇りが感じられます。このビジュアルは、ジンダルがインドの成長と発展に深く根ざしていることを示し、訪問者に強い印象を与えます。
ファーストビューのすぐ下には、同社のグローバル市場での実績が記載されており、力強さを感じさせる内容です。
サイト全体で効果的に使用されているピクトグラムも、情報を伝えやすくし、親しみやすいデザインを形成しています。
ダイナミックな写真を使用することで、事業の拡張性や産業の社会的インパクトを連想させます。文字情報をミニマルに定量データに絞りこむことで、オーディエンスに一目でブランドの実績を伝え、興味関心を引き付けます。
このように、ピクトグラムや写真、ミニマルな情報の配置により、ユーザーは、情報が取得しやすく、企業への興味関心、印象を向上させることに繋がっています。
Infosys Limited(以下インフォシス)は、1981年に設立されたインドを代表するグローバルなITサービス企業です。ITコンサルティング、ソフトウェア開発、エンジニアリング、アウトソーシングサービスを提供しており、業績推移は堅調です。現在、全世界に29万人以上の従業員を擁し、年間売上高は150億ドルを超えています。世界中の大手企業がクライアントであり、米国やヨーロッパをはじめとする主要市場に強力なプレゼンスを持っています。
ブランディングポジションにおいては、「デジタルトランスフォーメーションを推進するパートナー」としての地位を確立しています。インフォシスのブランドは、革新と信頼をキーワードに、クライアント企業に対する長期的なビジネスパートナーシップを強調しています。特に、中流から上流のクライアント層をターゲットにしており、質の高いサービスと専門知識を提供することで、高付加価値なブランドイメージを築いています。
ウェブサイトは、企業のブランド戦略と価値観を強く反映した洗練されたデザインが特徴です。インフォシスが推進する「デジタルトランスフォーメーション」を象徴するような、モダンでダイナミックなデザインが採用されています。
デザインにおいて、写真やビジュアルコンテンツの使い方が洗練されており、企業の技術力やグローバルな影響力を視覚的に表現しています。トップページには、芸術性が全面に出た勢いのある写真が使われています。ページ下部でも大胆で鮮やかな色遣いにより、新規性を印象付けるようなデザインとなっています。
コンテンツ面では、企業のビジネス領域や実績、技術的な専門性を具体的に紹介する内容が充実しています。特に、「デジタルトランスフォーメーション」や「AI・機械学習」などのテーマに焦点を当てたセクションが目立ち、インフォシスの専門知識を強調することで、ターゲット層に対する訴求力を高めています。また、ブログやケーススタディ、ニュースリリースも頻繁に更新されており、企業の動向や業界トレンドに対する洞察を提供しています。
以上のように、大胆で革新的なデザインと、豊富な専門的情報により、訪問者は同社の先進性と信頼性を直感的に感じ取ることができます。
BIRA 91(以下ビラ91)は、2015年に設立されたインドのクラフトビールブランドです。国内外で急速に成長を遂げており、2024年3月には2500万ドル(約35億円)の資金調達を実施しています。
ビラ91は、そのユニークでカジュアルなブランディングと高品質なビールで、特に若年層から大きな支持を集めています。インド国内のビール市場ではHeineken(ハイネケン)、AB-Inbev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)、Carlsberg(カールスバーグ)に次ぎ4番目に大きい会社となっています。海外展開にも積極的で最近では、米国や日本の市場にも進出し、その業績は飛躍的に伸びています。
コーポレートブランディングにおいては、「モダンで自由なライフスタイル」を体現するブランドとしての地位を確立しています。同社は、インド市場において新しい飲酒文化を提案し、ビールを通じて若い世代に向けたライフスタイルブランドを構築しています。ターゲット層は主に中流から上流の若者であり、創造性、自由、そして楽しさをキーワードに、彼らに響くようなデザインやマーケティング戦略を展開しています。
ウェブサイトは、製品とタグラインを見やすく配置し、プロダクトデザインが引き立つような構造になっています。このウェブサイトは、ビールの楽しさとビラ91が持つクリエイティブで自由な精神を視覚的に表現しています。
デザインにおいては、遊び心あふれるグラフィックとビビッドなカラーパレットが特徴です。明るくポップな色使いが目を引き、訪問者にフレッシュで楽しい印象を与えます。また、各ページには独特のイラストや写真が効果的に配置されており、ブランドのクリエイティブな側面が強調されています。特に、ビールの製品ラインナップやストーリーを紹介するセクションは、視覚的に豊かでありながらも、ユーザーが直感的に操作できるシンプルなレイアウトとなっています。
コンテンツ面では、ブランドのストーリーや製品の詳細を分かりやすく紹介しています。具体的には、各製品に合う料理や、使われている原料、味を想起しやすい写真などの記載があります。
同社は「内なる自分を解き放つ」というブランドメッセージを持っています。これはウェブサイトデザインにも表れており、新しいライフスタイルを表現するような個性的な写真が各所に配置されています。
全体として、ビラ91のウェブサイトデザインは、企業のブランディング戦略と価値観を強く反映しています。訪問者に対して強いブランドメッセージを伝えるデザインとコンテンツが特徴です。飲料としての価値だけでなく、個性溢れるライフスタイルを提供するビラ91のブランド体験は、大きな差別化要因であると考えられます。となっているのが印象的です。
まとめ
今回ご紹介したインド企業のコーポレートウェブサイトデザインは、それぞれが独自のブランディング戦略やデザイン哲学を反映しています。
これらの事例から、企業の価値観やターゲティングに基づいたウェブサイトデザインが、コーポレートブランディングにおいていかに重要であるかがわかります。
一方で、これらのウェブサイトには共通して、カラフルな色遣いやミニマルなデザインが効果的に活用されている点も見逃せません。
今後インド市場に進出する際に、本記事で掲載した事例を参考にしていただければ幸いです。
また、Storytellingでは、コーポレートウェブサイト制作を始め、インドでのデジタルマーケティングにおける様々な支援を行っています。インドでの確かなデジタルプレゼンス、ブランドポジションを築きたいというご要望がございましたら、是非ご相談ください。
2019年に設立されたStorytelling LLPは、インドグルガオンを本社に置く日系企業です。
企業様のビジネスにおける強みを理解し、それぞれのユニークなストーリーを世に送り出すことをミッションとしています。現地における市場調査をもとに、カスタマイズされたデジタルブランディング、デジタルマーケティング戦略を通じて、企業の持続的な成長を支援します。
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