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2023年はじめに、インドのSNSを騒がせたBlinkitとZomatoのコラボキャンペーンについてご紹介していきます。
この成功の裏側に綿密に設計されているだろうマーケティング手法についてSTORYTELLINGの視点で分析、解説していきます。
ビルボードへ掲げられたキャッチコピーが、インスタグラムで9.6万いいね
これは、2002年に公開された映画「Maa Tujhe Salaam」の名台詞「Tum doodh mangoge hum kheer denge; tum Kashmir mangoge hum cheer denge」をひねったものであり、映画をこよなく愛する多くのインド人の心をくすぐるコピーです。
ビルボードを撮影した画像クリエイティブは、BlinkitのインスタグラムにZomatoのコラボレーションで投稿され、5日間で9.6万ものいいねを獲得しました。
バイラルミームで、Netflix、ムンバイ警察署まで。Twitter、LinkedInなどSNSへの拡散が止まらない
Blinkitの親会社であるZomatoは、Blinkitの看板広告と並ぶかたちで、”Kheer mangoge, kheer denge(あなたがキールをオーダーするのであれば、我々はキールをお届けします) “というキャッチコピーを添えました。 このインド人の心を捉えたコピーと、2大インドスタートアップブランドのコラボクリエイティブが今、インドでトレンド化しています。 業界を問わず、さまざまなブランドが自社のUSPやトレンド、フィロソフィーを投影し、クリエイティブなアイディアをInstagram、Twitter、LinkedInなどのSNSへ発信しています。
インド主要メディアのHindustan Timesでもこれを取り上げたニュースを配信し、だれもが無視できない大きなマーケティングキャンペーンとなっています。
広告やマーケティングに特化したニュースメディアExchange4mediaには、
「チームは、人々がこれを好むことを知っており、他の人が参加できるよう意図的に投稿のスペースを残しました」と専門家の一人は述べている、とあります。
事例
Netflix - Twitter
「Friday mangoge, Wednesday denge」(金曜日に頼めば、Wednesdayにお届けします)」
*Wednesdayは今、インドで大人気のシリーズドラマで曜日とタイトルをもじった表現
It's a great day to go out and look at billboards 👍 pic.twitter.com/JKoAmDHwEc
— Netflix India (@NetflixIndia) January 3, 2023
Mumbai Police - Instagram
「Help mangoge, 24/7 denge」(助けが必要であれば、365日いつでも!)
Terra Motors - LinkedIn
「E-rickshaw mangoge, Finance bhi denge」(Eリキシャをご所望であれば、ローンもセットでお届けします)
インドでミームマーケティングがなぜうけるのか?
海外のSNSマーケティングでは、ブランド認知度の拡大や、ユーザーの巻き込み、コミュニティ作りのためにミームマーケティングが効果的と認知されています。
そもそもミームとは?
ミームとは、リチャード・ドーキンスが1976年に発表した造語で、「遺伝子が増殖するように、あるアイデアが大衆文化(観客)に浸透し、定着すること(共有性)」を意味しています。
平たくいえば、ミームとは、キャッチコピーやジョーク、あるいはテレビシリーズや映画などの大衆文化に由来するGIFやビデオ、最近ではARフィルターなども該当します。
ミームとは、ユーモアなコンテンツであると同時に、人とのつながりを生み出すコンテンツでもあります。この概念故に、短期間とはいえ、オンラインコミュニティを構築する力があると言われています。
ミームは、気軽にだれかにシェアしたくなる
インターネットユーザーは、毎日145分間をソーシャルメディアに費やしていると言われています。ユーザーは、猫のビデオを見たり、ジョークを共有したり、実生活の悩みを忘れるために、このようなユーモアのあるデジタルコンテンツを大切にしています。
おもしろいコンテンツは、友人やコミュニティにシェアしやすい特性があり、ミームは、自社ブランドをフォロワーのフォロワーへリーチさせていく最良の方法でもあります。
また、ミームはバイラル化する特性があり、バイラルマーケティングの一部でもあります。バイラル・マーケティングとは、主にインターネットやメールにより、口コミを利用して不特定多数に広まるよう仕掛けていくマーケティング手法です。
ミームを使った広告は、さりげない広告で好感度を上げる
クリエイティブなミームは、インプレッション、いいね、シェア、リツイート、その他のオンラインインタラクションによって、エンゲージメントを確実に得ることができます。
なぜなら、ミームではユーザーがブランドに売り込まれている印象を持たずに、ブランドとユーザーが関わっていくことができるため、インタラクションが生まれやすい特性があるためです。
これは広告と特徴も効果も大きく異なる点です。他国にもれず、インドにおいても一般的な広告のクリック率低下やリードの質の低さは同様の課題であり、広告戦略だけで収益化していくことが難しくなっている中、ミームは一つ効果的な戦略となっています。
Zomatoはミームマーケティングのオピニオンリーダー
インドのフードデリバリーアグリゲーターであるZomatoは、フードを注文するアプリを実業としていますが、オンライン上には彼らのサービスだけでなくブランドを愛する多くのフォロワーが存在しています。これは、ユーザーが彼らのウィットに富んだ皮肉たっぷりのクリエイティブを楽しみにしているためです。
Zomatoは、自らを「ミームマーケティングでNo.1になる」と掲げており、ミームを使ったコンテンツマーケティング手法によって多くのオーガニックトラフィックを生み出し、最終的に全体の収益増に貢献してきました。
また、既存の顧客やフォロワーを飽きさせることなくブランドリテンションとしても効果を生み出しています。
適切な場所、適切なタイミングにユーザーへ届ける、モーメントマーケティング
今回、このキャンペーンの成功のもうひとつの要因は、モーメント・マーケティングにあります。モーメント・マーケティングとは、企業が適切な場所、適切なタイミングでユーザーにマーケティングを行う戦略です。
SNSの世界では、タイミングは重要です。移り気なオーディエンスの興味・関心が高まった瞬間を掴み、トレンドに仕立てあげていくのは、ブランド側とオーディエンス側の双方のインタラクションによって生まれています。
前述のe4mediaの取材で、Grapesのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターPriyank Narainは、
「最近では、何がトレンドになるのかわかりません。そして、トレンドがあるときはいつでも、マーケティング担当者がそれに便乗して、面白い方法で消費者に自社のUSPを思い出させるきっかけがあります。そうして消費者と瞬時につながることができるのです。」と語っています。
このミームクリエイティブに好奇心を持ち、最初にこのキャンペーンに便乗する数少ないブランドの1つであることが、さらなる意味とインパクトを生み出します。無名のブランドが、デジタル上におけるソートリーダーにもなり得ます。そして、ZomatoとBlinkitは、自分たちのクリエイティブが大当たりしたことに気づいた時、「Trend Mangoge, trend denge, how two billboards became tooooo big on the internet」と掲げ、再びインスタグラムに投稿しています。
この投稿に便乗できたイノベーターブランドのブランド認知度向上価値はいかほどのものになったでしょうか。
ここでの課題は、マーケターはクリエーターが非常に短い時間で興味深いメッセージを考え出すことです。しかし、インド人にとってさほどこれは難しい作業ではないという印象です。彼らは、自社のUSPを理解しており、これをおもしろおかしく、ウィットなコピーにまとめることが好きで得意としています。
大切なのは、ブランドマネージャーやマーケティングマネージャーが、このキャンペーンに便乗することをポジティブに捉え、すぐに承認を与え、チャレンジさせてみることではないでしょうか。
ブランドとブランド、ブランドとオーディエンスが繋がる瞬間を逃さないこと。モーメント・マーケティングのコンセプトを理解し、実行することで、ブランドは低コストで高い効果を生み出すSNS戦略を実施していくことが可能なのです。
ビルボードなどの大型看板広告(OOH)が伝統的な屋外広告が、BlinkitとZomatoのコラボ企画によって、デジタル広告の世界と融合した今回のキャンペーンは、オフラインとオンラインのマーケティング施策が融合した、新たな成功事例となりました。
日々変化するインドのブランド・マーケティング施策を敏感にウォッチし、前例を踏襲することに縛られない新たな潮流が生まれていくタイミングを逃さずに、自社ブランドの新たなデジタルブランド・マーケティング施策を模索していくことが、さらに必要となっているように感じます。
参照記事
Suguri Mikami
住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に5年間勤務、海外IR・マーケティング支援企業にて営業、プロジェクトマネージメントを経験する傍ら、自社リード獲得のためのデジタルマーケティング活動に携わる。2016年にインドへ移住。マーケティング・IT領域に特化したコンテンツ制作を中心にフリーランスとして活動。
2019年にインドを拠点としたデジタル・ブランドマーケティング会社Storytelling LLP を創業。日系およびインド系企業のデジタル上におけるブランド・マーケティング戦略の立案、実行をサポートする。