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DailyObjectsに学ぶインド発ライフスタイルブランドの戦略 | MA×PAで読み解く日系企業への示唆

ここ数年、インド国内ではグローバル水準のデザインと体験を提供するブランドが急速に台頭しています。その一つがラゲージブランド「Mokobara」でした。

今回ご紹介するライフスタイルブランドは、グルガオン発の「DailyObjects」です。Apple Premium Reseller(Apple認定の上位リテール網)と並んで陳列されるまでに成長し、その存在感がマス市場へと広がりを見せています。

本記事では、DailyObjectsの戦略をデジタルブランディング戦略の中核となる「メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)× フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)」の観点から解剖します。

あわせて、製造体制の選択(自社製造 vs OEM)、セレブ・メガインフルエンサーを使わないという戦略的判断、ターゲット消費者の具体的なライフスタイルまでを掘り下げ、日系企業がインドで愛されるブランドを構築するための視点を整理します。

DailyObjectsとは | インド発デザイン主導のD2Cライフスタイルブランド

Daily Object インド ライフスタイル
出典:Daily Object Webサイト

DailyObjectsは、2012年にPankaj Garg氏とSaurav Adlakha氏によって、デリーNCRのGurugramで創業されたデザイン主導のライフスタイル&テックアクセサリーブランドです。スマートフォンケース・MagSafe対応アクセサリー・ワイヤレス充電器・バッグ・財布・ステーショナリーなど、「日常を少しだけ非日常に変える」プロダクトを軸にしています。

ブランドの基本ステータスを整理すると、次のとおりです(2026年初頭時点)。

項目 内容
顧客規模 グローバル顧客数 200万人以上 / 累計販売 1,200万個以上
売上 FY25 約₹110〜111 Cr / FY26計画 ₹220〜230 Cr(前年比約2倍)
資金調達 累計 約1,450万米ドル(2024年5月 Series B $10M、2025年10月にも追加調達)
従業員数 309名(2026年3月時点、前年比2倍)
自社サイト経由売上 全体の約65〜70%
ロイヤルティ指標 リピート購入率 約47% / 平均購入単価(AOV)約₹1,800〜2,000
オフライン展開 自社初の旗艦店をムンバイ・Oberoi Sky City Mall(2025年7月)に開設、3年で40店舗を計画
Apple認証・流通 MFi-certified/Qi2-certified の MagSafe対応プロダクトを展開、Aptronix等のApple Premium Reseller約250店舗で取扱い
製造体制 自社製造比率「80〜90% Made in India」、30社以上のMSMEパートナーと協業

創業者背景 | 「海外経験ゼロ」のインド人が描いた世界基準

DailyObjectsというブランドがデジタル上で認知度を高めたころ、創業者・Pankaj Garg氏の経歴に驚きを隠せませんでした。

Pankaj氏は、インド・ラジャスタン州アルワル県の村ムバリクプール(Mubarikpur)出身。ラジャスタン大学で商学士、その後クルクシェートラ大学でMCA(コンピュータ応用修士)を取得しました。卒業後はムンバイのPatni Computers、続いてプネのAmdocsで約4.5年エンジニアとして勤務しています。

LinkedIn Daily Object 創業者
出典:LinkedIn Pankaj Garg氏ページ

注目すべきは、米国勤務のチャンスがありながら、それを断ってインドに残り起業した点です。ドットコムバブルの時代に「インターネットがこれからの世界を変える」と確信し、最初はSaleDekho.comというECサイトを立ち上げ、2012年にこれをDailyObjectsへピボットしました。

つまり、Pankaj氏は欧州・米国でデザイン教育を受けたわけでも、グローバル消費財ブランドで経験を積んだわけでもありません。インドの地方都市出身、インドで教育を受け、インド国内のIT企業でキャリアを積んだ「100%インドキャリア」の起業家です。それでもなお、彼が生み出すプロダクトはApple Premium Resellerと並べても遜色のないミニマルで洗練された世界観を持っています。

なぜ今インドで「ライフスタイル」が熱いのか

DailyObjectsが急成長している背景には、インドの消費市場そのものの構造変化があります。

Daily Object インド ライフスタイル
出典:DailyObject Webサイト

1. プレミアム化(Premiumisation)の本格的な始動

インドの消費市場は、いま「アフォーダブル(買える価格帯)からアスピレーショナル(向上心)へ」と軸足を移しつつあります。Bain & Company の India Luxury Report(2024)によれば、インドのラグジュアリー市場は2025年までに約85億米ドル規模、年率10〜12%成長と予測されており、その購買の約35%を「アスピレーショナル・ミドルクラス(向上心のある中間層)」が担うとされています。

もう少し解像度を上げていくと、新規ラグジュアリー購入者の約60%が35歳未満、約48%が大都市圏外。すなわち、「年配の富裕層がアスピレーショナル消費の主役」という旧来の構図は崩れ、ミレニアル世代・Z世代を中心としたデジタルネイティブな層がプレミアム需要を牽引しています。

インドのトップ5%は約6,500万人。これはタイや英国、フランスの人口に匹敵する規模で、グローバルな美意識に触れ、ソーシャル上での自己表現を重視し、「価格」よりも「物語と体験」を選びとる層です。

2. D2C市場の構造的拡大

プレミアム消費の地殻変動を支えているのが、D2C(Direct-to-Consumer)市場の急拡大です。

  • インドのD2C市場:2025年で約875億米ドル → 2031年には約3,221億米ドル(CAGR 24.30%)と予測
  • インドのスマートフォンユーザーは2026年までに約10億人に到達見込み
  • 新規D2C顧客の60%以上が都市部でなくTier-2・Tier-3都市と言われる地方から流入
  • ファッション・アクセサリーはD2Cの最大セグメントの一つ

ターゲット層は「メトロ都市部の限られた富裕層」ではなく、「インド全土に広がる、デジタルで購買意思決定を完結するアスピレーショナル層」へと拡大しています。

3. ターゲット消費者の具体像 | 「マス・プレミアム」のリアル

DailyObjects公式が語るコア顧客像は「都市部(Tier 1)・中規模都市(Tier 2都市)の20〜45歳、マス・プレミアム層」です。以下に、生活実感のあるレベルまで解像度まで下げた詳細をご紹介いたします。

観点 ペルソナA:アリヤ ペルソナB:ロハン
属性 28歳・女性・ベンガルール・外資系IT企業勤務 33歳・男性・ムンバイ・スタートアップのプロダクトマネージャー
年収・働き方 約₹18 LPA/手取り月収約₹10万。HSR Layoutの2BHKをルームメイトと折半 約₹35 LPA。WeWorkでハイブリッド勤務
デバイス iPhone 15、AirPods Pro、MacBook Air、Apple Watch iPhone 15 Pro、ノイズキャンセリングヘッドフォン、iPad Pro
ファッション H&M、Zara、Uniqlo、独立系インドブランド、旅行時はMokobara 普段はインディーブランドとUniqlo。Khadiコットンシャツ+Apple Watchの組み合わせを好む。出張時は無印良品+国際ブランド
ライフスタイル Blue Tokai/Third Wave Coffeeで週3回作業、週末はKoramangalaのカフェ。年2〜3回旅行(Goa、バリ、近々東京の予定) 「Made in India」を意識的に選ぶ。インドのブランドが世界で認められる物語に共鳴する
情報源 Instagram、Pinterest、LinkedIn。フォロー対象はニッチクリエイター(建築・デザイン・テック系)。Bollywoodスターは追わない YouTubeのTech Reviewer(Mrwhosetheboss、MKBHD)、Twitter/X、ニッチなSubstack
購買ブランド Nykaa、Mokobara、DailyObjects、boAt、Lenskart、たまにZara DailyObjects、Mokobara、Lenskart、Bose、Apple純正アクセサリ
価値観 「自分の趣味で選んだ」と言えることが何より重要。ステータスではなく「自己表現」 機能とデザインの両立。「インドのブランドが世界に通用する」物語に強く惹かれる

この2人に共通しているのは、「価格に対する妥協」ではなく、「美意識に対する妥協」を最も嫌うという点です。彼らにとって ₹1,800〜₹2,000 の iPhoneケースは、「無印で買う1,000円のケース」ではなく、「無印で買う2,000円の手帳」のような位置づけです。生活の中で長く使うものに対しては、価格よりも「自分の世界観に合うかどうか」を優先します。

そして決定的に重要なのは、彼らはセレブの推薦で商品を選ばない、ということです。むしろ、「あのBollywoodスターが宣伝しているブランドだから」と聞いた瞬間に、買う意欲がやや下がる。彼らが知りたいのは、「自分と感性が近い人が、何を選んでいるか」です。この一点が、後述するインフルエンサー戦略の選択に直結します。

DailyObjectsの戦略 | メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される) × フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起) の設計図

ブランド戦略とマーケティング戦略を別の活動として扱うブランドは、最終的に消費者の頭の中で一貫性を失います。DailyObjectsの強さは、両者を「メンタル・アベイラビリティ(買う場面で頭に浮かぶ確率)」と「フィジカル・アベイラビリティ(実際に買える経路と摩擦の少なさ)」という、Ehrenberg-Bass Instituteが体系化した枠組みで一体的に設計している点にあります。

以下では、DailyObjectsがこの2つの軸をどう積み上げてきたかを、具体的な施策レベルで分解します。

1. メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)の設計

メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)は、「スマートフォンを買い替えた → ケース必要 → そういえばDailyObjectsがあったな」「友人にiPhoneのアクセサリーを聞かれた → DailyObjectsを薦める」という、購買トリガーが立ったときの想起確率です。広告予算の総額ではなく、「思い出されるための仕掛けが、生活の中にどれだけ埋め込まれているか」で決まります。

(A) 一貫したミニマル × プレミアムなビジュアル言語

DailyObjectsのプロダクト・パッケージ・サイトUI・SNS投稿・店舗什器・広告クリエイティブ。すべてが同一の視覚言語で統一されています。落ち着いた色調、余白の使い方、製品単体を主役にした撮影アングル、タイポグラフィ。どのタッチポイントで触れても、「ああ、これはDailyObjectsの世界だ」と判別できる「ディスティンクティブ・ブランド・アセット(あのブランドだと直感的にわかる体験)」が確立されています。

これは欧米のミニマリストブランドや日本のライフスタイルブランドにも通じる感覚であり、「インド発=カラフルで装飾的」という従来のステレオタイプを正面から覆しています。

Daily Object インド ライフスタイル
出典:DailyObject Webサイト

(B) Puftコレクション | もう一つの軸としての「Kawaii(かわいい)」のインド翻訳

Daily Object インド ライフスタイル
出典:DailyObject Webサイト

ここまでDailyObjectsの美意識を「ミニマル × プレミアム」と整理してきましたが、実はこのブランドの美意識は単一ではありません。もう一つの強力な軸として、近年人気を集めている「Puft(プフト)コレクション」があります。

Puftは、ふっくらと膨らんだクッションのようなシルエットを持つバッグライン。Colourblock Oversized Tote、Periwinkle Baguette Bag、Blue Bucket Sling Bag、Red Laptop Bag など、誇張されたボリュームと鮮やかなカラーブロックが特徴です。コレクションのデザインは、テキスタイルデザイナー Daksha 氏が手掛けています。

ブランド自身によるこのコレクションの説明には、次のような言葉が並びます。「子供時代の記憶からインスピレーションを得た、柔らかな安らぎと温もり」「誇張されたシルエットは抗いがたく柔らかく、優しい抱擁のような存在」「遊び心のあるカラーミスマッチが好奇心を呼び起こす」。

膨らんだフォルム、ノスタルジア、彩度の高い色遊び、子供っぽさとプロフェッショナルさの絶妙なアンバランス。Puftは日本のkawaiiをそのままインドに輸入したものではなく、「インドの色彩感覚」を通過させた翻訳になっている点です。彩度の高いペリウィンクル、コーラルレッド、サーモンピンク。これらは、インドのテキスタイル文化や祭の色彩で育った感性が、kawaiiのフォルムと融合したものです。

戦略的に見ると、DailyObjectsはここで二つの美意識軸を併用しています。

  • ミニマル × プレミアム軸 | Apple ユーザー、知的・落ち着いた表現を求める層に響く
  • カワイイ × ノスタルジア軸 | やわらかさ・遊び心を自己表現として選ぶ層、特にZ世代に響く

しかも両者を貫いているのは、「グローバルな美意識コードを、インドの感性で翻訳する」という同じ姿勢です。北欧やアメリカや日本のミニマリズムをそのままコピーするのでも、日本のkawaiiをそのまま輸入するのでもなく、インドの文脈で一度再構築している。これが、インド発ならではのDailyObjectsの世界観です。

(C) 「Less Ordinary」という引き算によるブランドボイス

「#LessOrdinary」を一貫したトーンとして使い、「日常を、少しだけ非日常に」というメッセージを反復しています。誰でも記憶できる、短くシンプルなタグラインを長期間にわたって使い続けることで、消費者の頭の中にブランド固有の連想(mental shortcut)を形成しています。これまで、「No.1 Brand in the Industry」「Made in Japan」といった足し算が目立つインドFMGCですが、「Less」という引き算の法則を使ったタグラインは、むしろ深い印象を残す効果を生んでいます。

(D) アーティストコラボレーション | 「文化的な正しさ」の獲得

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出典:DailyObject Webサイト

DailyObjectsは創業初期から、世界25カ国以上の独立系アーティスト500人以上と協業し、限定デザインを発表する「Artist Collaboration Series」を展開しています。

この戦略の本質は、単なるグラフィック調達ではありません。アーティスト一人ひとりが、自身のSNSコミュニティに対してDailyObjectsとのコラボを発信することで、ブランドが「広告で押し付けてくるブランド」から「文化的に正しいブランド」へと変換されていきます。広告投資というよりも、文化投資としてマーケティングが設計されているのです。

(E) 「インフルエンサーマーケをやらない」という戦略的選択

DailyObjectsの戦略でとくに示唆深いのが、Bollywoodスター・スポーツ選手などのメガインフルエンサー・セレブを意図的に起用していないことです。インドのD2Cではセレブ起用が主流(boAtのHardik Pandya、Mamaearthのシルパ・シェッティ等)であるなか、これは際立った選択です。

ただし「インフルエンサーマーケティングをやらない」のではなく、「マイクロ・ニッチインフルエンサーに集中する」のが実態です。

  • デザイナー・建築家・テックレビュアーなど、専門ニッチ領域のマイクロインフルエンサーを起用
  • マーケティング責任者Pranil Shah氏は「ユーザーが我々のインフルエンサーだ」と公言
  • UGC(ユーザー生成コンテンツ)を主軸にしたソーシャル戦略
  • Reels・Shortsへの予算シフトで2025年にCPAを約40%削減

この選択の戦略的合理性は、前項で描いた消費者ペルソナと完全に一致します。アリヤやロハンのような層は、「Bollywoodスターが使っているから」買うのではなく、「自分が信頼するクリエイターが、なぜそれを選んでいるか」を見ています。セレブ起用はリーチを最大化しますが、ブランドが「マス向け」に見えた瞬間、彼らの「自己表現の道具」としての価値が下がるのです。

つまり、DailyObjectsはメンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)を「リーチの広さ」ではなく「ターゲット層内での濃さ」そしてコミュニティ形成による「伝播力」を取りに行っています。これは長期的な視点でROIを最大化する戦略的な選択です。

(F) Apple認証・Aptronix提携によるハロー効果

Daily Object インド ライフスタイル
出典:Aptronix Webサイト

MFi-certified、Qi2-certified の取得と、Apple Premium Resellerの最大手 Aptronix との提携(2025年9月)は、フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)の拡大であると同時に、「メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)(買う場面で頭に浮かぶ確率)」への強烈なシグナルでもあります。

消費者の頭の中では、「Appleが認めるブランド」「Appleの世界観と並んで存在しても違和感のないブランド」という連想が形成されます。これは、ブランド単独では何年もかけて獲得しなければならない信頼を、Appleのブランド資産を借りて一気に獲得する仕組みです。

2. フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)の設計

メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)でどれだけ思い出されても、買おうとした瞬間に「どこで買えるかわからない」「在庫がない」「サイトが重い」「越境決済ができない」という摩擦があれば、その購買意欲は消えます。DailyObjectsは「フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)(実際に買える経路と摩擦の少なさ)」を次の多層構造で設計しています。

(A) 自社サイト・アプリ:摩擦を限界まで削った購買体験

  • dailyobjects.com:売上の約65〜70%を占める。製品撮影・カテゴリ構造(iPhoneモデル別・ライフスタイルシーン別など多面的)が一貫
  • モバイルアプリ:Apple App Storeで4.7点以上、21,000件以上のレビュー。800種類以上のiPhoneケースから選択可能
  • 購買摩擦を限界まで削った設計(数ステップで購入完了)

自社チャネルが売上の3分の2を占めることは、インドD2Cでは異例の高さです。これは「マーケットプレイスに依存しない」「ブランド体験を自社で完結できる」自立性を意味します。

(B) マーケットプレイス:Amazon・Myntra・Flipkart

自社サイトを訪れる前段階で「DailyObjectsを知らない」消費者の発見動線として、主要マーケットプレイスにも展開しています。

(C) クイックコマース:Zeptoとの提携(2025年2月〜)

インドの主要メトロ都市で広がる「10分配送」需要に対応し、Zeptoと提携。「今すぐiPhoneケースが必要」「明日の出張用にバッグが要る」という即時購買ニーズへのリーチを獲得しています。

(D) 自社オフライン店舗:「ポップアップ→旗艦店→スケール」の段階設計

  • 2023年12月:DLF CyberHub Gurugramに、初のポップアップ「Playground」をオープン。CyberHubはNCR随一のオフィス・ダイニング集積地で、ターゲット層が日常的に通過する場所
  • 2025年7月:ムンバイ・Oberoi Sky City Mallに、自社初の本格的な常設店舗をオープン
  • 中期計画:3年で40店舗(旗艦店・体験センターのミックス)/ FY26末までに15〜20店舗

いきなり大型出店ではなく、ポップアップで仮説検証 → 旗艦店で体験設計を磨き込み → 段階展開、という典型的なリーン・リテール戦略です。

著者もDailyObjectsを知ったのは、CyberHubのポップアップがきっかけでした。

(E) Apple Premium Reseller網:約250店舗 → 400店舗超への拡張

Aptronixを中心としたApple Premium Reseller網に、約250店舗で取扱開始。今後さらに150〜200店舗を追加予定。これは「Apple ユーザーの動線に並走する」最強の物理的接点です。

(F) 空港リテール

国内主要空港にも展開。出張・旅行というシーンに合わせた「旅前購買」ニーズを捕捉しています。

(G) 全国配送網:29,000+ ピンコード

インド全土の29,000以上のピンコードに配送可能な物流網。「DailyObjectsを知ったが、自分の街に届かない」という事態を構造的に排除しています。

3. 心理的想起と購買摩擦の低さ を「掛け算」で設計する重要性

「メンタル・アベイラビリティ(買う場面で頭に浮かぶ確率)」と「フィジカル・アベイラビリティ(実際に買える経路と摩擦の少なさ)」は、足し算ではなく掛け算で効きます。メンタル・アベイラビリティがゼロの市場でフィジカル・アベイラビリティをいくら広げても、棚に並ぶだけで売れません。逆に、メンタル・アベイラビリティがあっても、買える場所がなければ機会損失です。

DailyObjectsの真価は、両者を「同じ世界観」で設計している点にあります。たとえばApple Premium Reseller網への展開は、フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)の強化であると同時に、「Appleと並ぶブランド」というメンタル・アベイラビリティ強化策でもあります。アーティストコラボは、メンタル・アベイラビリティの濃度を高めると同時に、コラボ商品自体がUGCを生んでフィジカル・アベイラビリティのきっかけになります。

「ブランド戦略は本社、マーケ戦略は現地」と分業してしまう日系企業の典型的な構造は、この掛け算の力を半減させます。インド市場で商機を得るには、ブランドとマーケを一体運用できる体制が不可欠です。

DailyObjectsの製造体制 | なぜ「OEM」ではなく「自社製造+MSMEネットワーク」を選んだのか

ブランド戦略を語るうえで、製造体制の選択は避けて通れません。DailyObjectsの製造に関する選択は、インドのD2Cブランドのなかでも特徴的です。

1. インドD2Cにおける2つの代表的スキーム

インドのD2Cブランドの製造・サプライチェーン構築には、大きく2つの代表パターンがあります。

観点 スキームA:OEM依存型 × ブランド・マーケ集中投資モデル スキームB:自社製造型 × ブランド・マーケ並行投資モデル
概要 製造はOEM/契約製造業者にほぼ全面的に委託し、自社の経営資源・調達資金を「ブランド構築」「マーケティング」「顧客獲得」に集中させるモデル 自社製造(または極めて密接な専属サプライヤー)を構築し、製造とブランドの両方に投資するモデル
代表例 boAt(オーディオ)、Mamaearth/Honasa(パーソナルケア)、mCaffeine、Sugar Cosmetics(コスメ) DailyObjects、Lenskart(自社レンズ製造)、Nykaa(一部Beauty製品)、Wakefit(マットレス自社製造)
メリット ・初期キャピタル軽量
・スケール速度が速い
・SKUの拡大柔軟性
・品質・原価・新製品立ち上げ速度の完全コントロール
・製造ノウハウの蓄積
・コピーキャット耐性
・長期マージン確保
デメリット ・品質コントロールがOEMに依存
・原価率がOEM側の効率に左右
・製造IPが蓄積しない
・コピーキャットに対する参入障壁が低い
・初期投資負担
・SKU拡大に時間
・立地・労務リスクの内部化
位置づけ インド版「ファブレスD2C」。インドのOEM/製造クラスターを活用し、ブランド側はデザインとマーケに予算を集中 製造とブランドを両輪で構築する重量モデル。長期的にマージンと差別化が積み上がる

2. DailyObjectsの選択 | ハイブリッド最適化

DailyObjectsは、典型的なスキームBに分類されますが、より正確には「自社製造 + MSMEネットワーク」のハイブリッド最適化モデルを採っています。

区分 内容
起点(2014年) デリーNCR(グルガオン)に自社製造ユニットを設立。当時の理由は「品質・原価・サプライチェーンへのコントロールが必要」(Pankaj氏)
現在の自社製造比率 約80〜90%が「Designed in India | Made in India」
社内リソース 1,000人以上のインド職人と協業(在籍/専属契約混在)
外部パートナー 30社以上のMSME(中小企業)パートナー網。原材料・パッケージ・特殊加工・縫製などをモジュール単位で委託
輸入部材 iPhoneケースの金型など、インド国内で経済合理性が出ない一部部材は中国から輸入

ここでの意思決定の妙は、「すべてを自社で抱える」のでも「すべてをOEMに丸投げする」のでもなく、「ブランド体験に直結する工程は自社、規模・専門性で外部のほうが優位な工程はMSMEへ」という、工程別の選択を行っている点です。

結果として、Pankaj氏が公言する「インドで最もキャピタル効率の高いD2Cブランドの1つ」というポジションを獲得しています。創業以来、累積調達額はわずか約1,450万米ドル。同等の売上規模を持つOEM依存型ブランドの3分の1〜5分の1の調達総額です。

ブランドポジショニング | 「インド発なのに」から「インド発だから」へ

DailyObjectsのポジショニングは、過去のインド発ブランドから次のフェーズを構築したことを著者のブランド体験から解説していきます。

1. 「インド発なのに美しい」を超えて「インド発だから美しい」へ

従来、インド発の消費財ブランドは「インド発なのに、グローバル水準」という「のに型」のメッセージで語られることが多くありました。「インド」という起点が、ある種のハンディキャップとして扱われてきたのです。

DailyObjectsはそこから一歩踏み出し、「インドの職人技」「インドのデザイン感覚」「インドのアーティスト」を、品質と独自性を担保する強みとして前面に押し出しています。

2. Made in India の戦略的意味

インド政府が「Atmanirbhar Bharat(自立したインド)」「Make in India」を国家戦略として強く打ち出しているなか、「Designed in India | Made in India」というブランドメッセージは、単なる原産地表示ではなく、国家ナラティブと整合したブランド資産になっています。

インドの消費者、特に若い世代にとって「インド発のブランドを選ぶ」ことは、「外国ブランドを選ばない」ことではなく、「自国のクリエイティブを誇る」ことに変わりつつあります。DailyObjectsはこの感情の変化を、押しつけがましくない形でブランド体験のなかに織り込んでいます。

3. 「愛されるブランド」を設計するということ

DailyObjectsのレビュー・SNSへの言及を見ていくと、「品質が良い」「値段相応」といった機能評価よりも、「箱を開けた瞬間が楽しい」「友達にも紹介した」「次のiPhoneに買い替えても、またここで買う」といった感情的な評価が圧倒的に多いことに気づきます。

ブランドが「機能で選ばれる商品」ではなく、「気持ちで選び続けられるブランド」になっているのです。リピート購入率47%という数字は、この感情的なロイヤルティの結果です。メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)とフィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)の両輪が回り、しかも「インフルエンサーで一時的に注目されるブランド」ではなく「コミュニティで愛され続けるブランド」になっている。これがDailyObjectsの長期的な競争優位の源泉です。

日系企業への示唆 | インドで「愛されるブランド」を構築するために

DailyObjectsの戦略から、インドでブランドを構築しようとする日系企業が抽出できる示唆を5つに整理します。

1. 「現地適応」ではなく「現地でブランドを再定義する」発想を持つ

多くの日系企業は、本社で完成したブランドを「現地化(ローカライズ)」するという発想でインドに入ります。しかしDailyObjectsの事例が示すように、インド市場で愛されるブランドは、最初から「インドの消費者の感情」を起点に設計されています。本社の世界観を犠牲にする必要はありませんが、「本社ブランドのインド版」ではなく、「インドの文脈の中でブランド哲学を翻訳し直す」姿勢が不可欠です。

2. メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)とフィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)を掛け算で設計する

「ブランド戦略は本社、マーケ戦略は現地」の分業構造は、心理的想起と行動のしやすさの掛け算を機能させません。インド現地法人にブランドメッセージの翻訳権限と、マーケ施策の意思決定権限の両方を持たせる。もしくは本社と現地法人が連動していく。ここを変えられない限り、現地競合と戦っていくことはますます難しくなっていくのではないでしょうか。

3. 製造体制は「自社か、OEMか」の二択ではなく工程別最適化で考える

カテゴリー特性によって、自社製造が正解になることも、OEM中心が正解になることもあります。重要なのは、「ブランド体験に直結する工程は何か」を特定し、そこは自社で抱え、それ以外をMSMEパートナーに広げるという、DailyObjects型のハイブリッド設計です。

4. インフルエンサーマーケは「リーチ」ではなく「信頼」の観点で設計する

インドでブランドを立ち上げる際、Bollywoodスター起用は最短距離に見えますが、マス・プレミアム層を狙う場合は逆効果になります。デザイナー・テックレビュアー・建築家・シェフ・編集者など、ターゲット層が信頼するニッチクリエイターとの長期的な関係構築のほうが、結果として高いROIを生みます。

5. 「Made in India」を、コストではなくブランドアセットとして翻訳する

日系企業がインドで製造することを、「コストのために仕方なく」ではなく、「インドの職人技と日本の品質哲学の融合」というブランドアセットとしてどう翻訳するか。これは、これからのインド市場で勝つための重要な問いです。Apple自身が iPhone をインドで製造する時代へと変化しています。

一般的なローカル代理店とSTORYTELLINGの違い

インドでライフスタイルブランドを立ち上げる際、フェーズによっては現地代理店でも十分に成果が出ることがあります。一方で、ブランドの初期構築・哲学の翻訳・グローバル品質の維持を求める段階では、視点の置き方が成果を大きく左右します。

観点 一般的なローカル代理店 STORYTELLING
対応言語 英語のみ/ヒンディー一部 日英バイリンガル(日本本社レポート対応)+地域言語対応
ブランド構築の起点 既存ブランドの現地適応(ローカライズ) インド市場の文脈でブランド哲学を再定義
戦略フレーム 「クリエイティブ」「KPI」中心の戦術論 メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される) × フィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起) の統合設計
インフルエンサー設計 セレブ/メガインフルエンサー中心、リーチ重視 ターゲットに応じたマイクロ・ニッチインフルエンサー設計、信頼重視
製造・サプライ視点 スコープ外 スコープ外、しかしサプライチェーン自体をブランドストーリーに組み込む
チャネル設計 デジタル広告中心の単発施策 守る(Trust)/伝える(Story)/届ける(Access)の3層設計
オフライン展開 スコープ外 ポップアップでの体験をデジタル上へ展開、旗艦店の段階設計をオンラインと統合
法令準拠対応 スコープ外と認識している DPDP法を含む法令準拠を消費者との信頼設計と位置付けるデジタル体験への実装
日本本社との接続 成果レポートのみ ブランド哲学・戦略・成果の翻訳を含めた本社・インド支社との連携

まとめ | インド市場で「ブランドをつくる」ということ

DailyObjectsは、特別に有利な条件で生まれたブランドではありません。創業者はラジャスタンの村の出身で、海外経験を持たず、グローバル消費財ブランドの出身でもありません。それでも、市場の構造変化を正しく読み、ブランドの哲学を一貫して翻訳し、メンタル・アベイラビリティ(心理的に想起される)とフィジカル・アベイラビリティ(買いやすさの想起)を掛け算で設計し、製造体制まで戦略と一体で構築することで、Apple Premium Resellerと並ぶ地位を獲得しました。

インドの消費者は、いま日本の消費者と同じ問いを買い物のなかで立てています。「これは、自分の人生にふさわしいか」。

その問いに答えられるブランドが、これからのインドで選ばれます。日系企業が持つ哲学・技術・美意識は、その問いに答えるのに十分なだけの素材を、すでに持っているはずです。あとは、それをインドの文脈で翻訳し直す視点と、伴走するパートナーがいるかどうかです。

「インドで日本企業のブランドを再定義したい」「現地D2Cブランドに匹敵する世界観を構築したい」。そうしたご相談があれば、まずは現状のブランドアセットと製造・チャネル体制の棚卸しからご相談ください。

STORYTELLINGは、日本とインドの両視点を持ちながら、御社のブランドを「インドで愛されるブランド」へと翻訳する伴走者でありたいと考えています。

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著者

STORYTELLING Co-Founder兼CSO(Chief Storytelling Officer)。国際的なローカライゼーションの分野で15年以上、デジタルコミュニケーションの分野12年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。現在は、インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の現地進出をデジタルブランディング&マーケティングを起点に支援する。

著者プロフィール詳細はこちら:https://storytelling-jp.com/trends/author-suguri-mikami/

参照元データ一覧

本記事の事実確認・数値は、公開時点(2026年5月)までに確認可能な以下の情報源を基にしています。

公式情報源

  • DailyObjects 公式サイト(dailyobjects.com/dailyobjects.us)
  • DailyObjects 公式 Puft Collection ページ(dailyobjects.us/pages/puft-collection)
  • DailyObjects 公式 About Store ページ(dailyobjects.com/about-store)
  • DailyObjects 公式アプリ(Apple App Store/Google Play)

プレスリリース・公式発表

  • DailyObjects × Aptronix 戦略的提携リリース(Business Wire India 配信、2025年9月1日)
  • DailyObjects 初常設店舗 Oberoi Sky City Mall ムンバイ出店発表(2025年7月)
  • DailyObjects「Stack」モジュラーエコシステム発表(2025年10月)

主要メディア報道

  • Indian Retailer「DailyObjects Opens First Physical Store in Mumbai」(2025年7月)
  • Indian Retailer「DailyObjects FY26 戦略・Rs 110-230 Cr 計画」(2026年2月)
  • Inc42「D2C Lifestyle Startup DailyObjects Bags $10 Mn」(2024年9月)
  • BusinessToday「D2C brand DailyObjects targets Rs 500 cr revenue」(2022年11月)
  • YourStory「Rejecting a job offer in the US, this entrepreneur started a D2C brand」(Pankaj Garg 創業者インタビュー)
  • YourStory「DailyObjects bringing innovative gadget accessories to the Indian market」
  • DNA India「This Ajmer villager earned Rs 85 crore revenue selling mobile covers」(2023年8月)
  • FashionNetwork India「DailyObjects holds first-ever physical pop-up in Gurgaon」(2023年12月)
  • Social Samosa「Inside: DailyObjects ─ a social media strategy of monochromatic palette」(2023年5月/Pranil Shah氏インタビュー含む)
  • Hindustan Times「DailyObjects launches Stack, modular ecosystem for iPhone accessories」(2025年10月)
  • D2CX Newsletter「How DailyObjects Became A ₹130 Cr ARR Lifestyle Powerhouse」(2025年2月)
  • The Wire/Business Upturn/Passionate In Marketing:DailyObjects × Aptronix 提携の各報道(2025年9月)
  • Indiaretailing.com 各記事(Pankaj Garg 関連報道)

企業データプラットフォーム

  • Tracxn DailyObjects 企業プロフィール・資金調達履歴(2026年初頭時点)
  • ECDB「Dailyobjects Company & Revenue 2014-2026」
  • PitchBook DailyObjects 企業プロフィール
  • Crunchbase DailyObjects プロフィール
  • TheKredible DailyObjects 財務情報
  • ZoomInfo DailyObjects 概要

インド消費市場・D2C市場関連レポート

  • Mordor Intelligence「India D2C E-commerce Market Analysis(2026-2031)」(2026年1月)
  • Bain & Company「India Luxury Report 2024」
  • Statista「India: direct-to-consumer (D2C) market size 2025」(Inc42原典)
  • The Brand Gym「Winning with the Aspirational Middle Class: Lessons from India」(2025年6月)
  • LVX Ventures「India’s D2C Market: Growth, Trends and Future Outlook」(2025年12月)
  • Pitch on Net「Premiumisation Goes Mainstream: How 2025 Redefined India’s Consumption Playbook」(2025年12月)
  • World Economic Magazine India「Cracking the Aspirational Middle Class With Luxury Brands in India」(2025年5月)
  • IBEF「Affordable Luxury: Understanding Premiumisation and Evolving Consumer Preferences」
  • Campaign India「Luxury unleashed: India’s growing appetite for premium」
  • HavStrategy「How to Market a Luxury Brand in India | 2026 Strategy Guide」
  • Afaqs「Mass market muscle won’t flex in premium India」
  • Inc42「122 D2C Brands That Are Disrupting India’s Consumer Market」
  • D2CStory「The Complete Guide to Indian D2C Brands」(2025年10月)
  • Clickpost.ai「Top 30 D2C Brands in India 2026」(2026年3月)
  • SocialChamps「Indian D2C Market Landscape 2025」

理論フレームワーク

  • Byron Sharp『How Brands Grow』(Ehrenberg-Bass Institute) ─ メンタル・アベイラビリティ × フィジカル・アベイラビリティ 概念

 

最終確認日:2026年5月15日。本記事の見解は、上記情報源を基にSTORYTELLING Consultingが独自に整理・分析したものです。各企業・媒体の見解そのものを代表するものではありません。