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インド健康食品市場の変遷と事例|The Whole Truthが実施する信頼の再定義

インドの健康食品市場は、ここ数年で明確な転換点を迎えています。かつて健康食品は、病後回復や医師の指示に基づいて摂取される補助的な存在であり、主なターゲットは中高年層でした。しかし現在、都市部を中心に、その意味合いは大きく変わっています。健康食品は「特別な人のためのもの」ではなく、「日常的に自分を管理するための選択肢」へと変化しているのです。

インドのウェルネス・栄養関連市場は、2020年代前半から年率8〜10%前後で成長を続けています。特にプロテインバー、ナッツスナック、低糖質食品といったカテゴリーでは二桁成長が続いており、約8割のインド人がより安全で健康な食品を探していると回答しています。

興味深いのは、その理由です。多くの場合、「将来の病気予防」よりも、「今の集中力を保ちたい」「体調を安定させたい」「メンタルを崩したくない」といった、現在進行形の生活を守るための動機が挙げられています。健康は目標ではなく、日常の判断軸になっていると言えるでしょう。

ここでは、インド健康食品業界の信頼を再定義したThe Whole Truth(ザ・ホール・トゥルース)事例から、健康食品市場の成長ドライブ、Z世代の不信感がなぜ生まれたのか、原点回帰型イノベーションの誕生までを考察します。

なぜインド健康食品市場は成長したのか

── Z世代が抱く「大手ブランドへの違和感」

この市場成長は、可処分所得の増加やフィットネスブームだけでは説明できません。むしろ、その根底にあるのは、若い世代が抱く強い違和感と不信感です。特に大手FMCGブランドが発信する「ヘルシー」「ナチュラル」「プロテイン強化」といった表現に対し、Z世代は無条件に距離を取ります。

これは反抗というよりも、情報が過剰なのに不透明、その矛盾した状態で流通する環境の中で育ってきた結果として、「信じる」よりも「確かめる」姿勢が身についているのです。

インドでは2010年代後半以降、「Healthy」「Natural」「High Protein」「Low Fat」といった表示を前面に出した商品が急増しました。

しかし同時に、実は「糖分が非常に多い」「人工甘味料・添加物が大量に含まれている」「1食分の定義が恣意的」といった事実が、SNSや個人ブロガー、YouTubeレビューによって次々に可視化されてきました。

「広告が嘘をついた」というわけではなく、ブランドが「語っていないことが多すぎる」という事実に気づいてしまったのです。こういった体験の積み重ねにより、広告はもはや判断材料ではなく、むしろ疑問を持つきっかけへと変化してきました。

Z世代の健康食品リサーチ行動

── ChatGPT時代の自己分析とABテスト

現在のインド都市部の若者たちは、健康食品を選ぶ際に、非常に論理的なプロセスを踏んでいます。自分の体調や不調を言語化し、ChatGPTなどの生成AIに入力して、必要な栄養素やライフスタイルを研究します。そのうえで、該当する商品をリストアップし、成分表やレビュー、SNSでの評価を一つずつ確認します。

実際に購入したあとは、1ヶ月ほど使用し、体調や集中力、睡眠の質などを自分なりに評価します。効果が感じられなければ、ためらいなく別の商品に切り替えます。これは感覚的な買い物ではなく、個人単位で行われるABテストに近い行動だと感じます。

このプロセスにおいて、選択されるブランドとなるためには、信頼されたブランド名ではなく、情報の整合性、説明の納得度、そして自分自身の体感となるのです。

インド健康食品事例|The Whole Truthが選ばれた理由

こうしたZ世代や健康意識の高い人々の行動様式を前提に設計されたブランドが、The Whole Truthです。

The Whole Truth
このブランドは2019年にインドで創業されました。創業者はスタートアップや消費財業界での経験を持ち、従来の健康食品マーケティングに強い疑問を抱いていました。

市場には健康を謳う商品が溢れている一方で、「これは何でできているのか」「なぜこの成分が入っているのか」「なぜ別の成分は使われていないのか」といった、消費者が本当に知りたい問いには誰も答えていなかったのです。

彼らが掲げたVisionは明快でした。市場が語っていることと、人々が実際に食べているものの間にはギャップがある。そのギャップこそが“The Whole Truth(全ての真実)”であり、そこを埋めることが自分たちの役割だという発想です。彼らは、このギャップを埋める活動を「食のジャーナリズム」と定義ずけ、力強いソートリーダーシップを発信している点も印象的です。

パッケージの透明性と説明責任という思想

The Whole Truthの最大の特徴は、徹底した透明性です。ECサイトやパッケージには詳細な成分表示がなされており、「何が入っているか」だけでなく、「なぜそれを使っているのか」「なぜ一般的な成分を使っていないのか」まで説明されています。

The Whole Truth The Whole Truth EC サイトより[/caption]

敢えて作り手の顔を出すマーケティング

── 信頼を「人」で設計する

さらに特徴的なのは、透明性を「人」にまで広げている点です。The Whole Truthの製品づくりには、地元で働く女性たち、特に母親世代が多く関わっています。

彼女たちを匿名の存在にせず、誰がどこで作っているのかをきちんと伝えることで、ブランドと生活者の距離を縮めています。 これは情緒的な演出ではなく、信頼構築のための合理的な戦略です。企業ではなく、人の顔がしっかりと見えることで、消費者は安心して判断できるようになります。

原点回帰型イノベーションという成功パターン

現在のインド健康食品市場などのスタートアップ系ブランドには、共通した構造があります。ビジュアルやトーンはグローバルで洗練され、視認性と分かりやすさが重視されています。一方で、ブランドのコアは徹底してインド的です。

素材はインドで調査・調達されたものが中心で、伝統的に使われてきた自然素材が選ばれています。この「原点回帰」と「イノベーション」の掛け算こそが、Z世代の不信を乗り越える鍵になっています。

インドという社会は、他国と比べても「食」と「身体感覚」の距離が非常に近い文化です。家庭料理、スパイス、アーユルヴェーダ的な考え方など、日常の中に「身体をどう整えるか」という知恵が埋め込まれてきました。Z世代はそれを無条件に信じているわけではありませんが、少なくとも「理由なく排除する対象」とも見なしていません。

ここで重要なのは、原点回帰が単独では成立しないという点です。

もし単に「昔ながら」「伝統的」「自然派」というだけであれば、Z世代はすぐに距離を取ります。彼女たちが求めているのは、原点回帰に対して、現代的な説明が与えられていることです。なぜこの素材なのか、どの成分がどう作用するのか、どこまでが分かっていて、どこからがまだ分かっていないのか。その説明が、論理的であることが前提になります。

だからこそ、「原点回帰 × イノベーション」という形が成立します。素材や思想はインド的でありながら、情報設計、パッケージ、言語化の方法はグローバルで洗練されている。この組み合わせによって初めて、Z世代は安心して判断できる状態になり、自分で納得して選択しているのです。

The Whole Truthが示した、インド健康食品マーケティングの現在地

The Whole Truthは、単なる成功事例ではありません。情報が溢れ、信頼が希薄になった時代において、ローカル企業が現地特有の消費者のインサイトに向き合い、説明責任を果たし、信頼の再設計を示したブランドです。

広告で語るのではなく、隠さずに伝えること。

ブランドを前に出すのではなく、事実を前に出すこと。その姿勢こそが、インドZ世代に選ばれ、そして今や多くの世代に愛されるブランドへ成長しつ続けている理由なのだと感じます。

参照記事:
https://www.marketresearchfuture.com/reports/india-healthy-food-market-44511

https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/india-healthy-snacks-market

https://indian-retailer.s3.ap-south-1.amazonaws.com

https://indiamycwc.org/wellness-for-youth/

https://thoughtoverdesign.com/work/the-whole-truth/

https://brandspecharcha.com/the-whole-truth-rebranding-case-study/

https://www.bluecircle.foundation/blog/understanding-nutrition-labels

The Whole Truth

https://en.wikipedia.org/wiki/Fast-moving_consumer_goods

https://en.wikipedia.org/wiki/Health_food

著者

Storytelling LLP 創業者兼CEO。国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。