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インド市場における日本食の現在地 ── 「選択肢」として定着し始めた背景

インドにおける食は、宗教・文化・慣習・嗜好・規制、どれを取っても日本企業にとって難易度が高く、インド市場への進出は、検討段階から次の一手へと進むことはありませんでした。

しかし2025年ころより、都市部における日本食の位置付けが徐々に「日常的な選択肢」へと変化を遂げています。


本稿では、日本食がインドでどのような位置にあり、なぜ今日本食の潮流が来ているのか、なぜ日本食がインド人に受け入れられ始めているのかを、 市場背景や、消費者行動などから整理します。


※本稿は2025年10月30日に実施した「日本レストランのインド進出ー市場基礎・進出形態・法務・マーケー《共催セミナー》」における弊社プレゼン資料部分の一部をおまとめしたものです。

日本食は今、インド市場でどの段階にあるのか

まず押さえるべきは、日本食が現在インドで置かれている市場フェーズです。 日本側では、日本食を「まだニッチ」「一部の富裕層向け」「都市限定の流行」と捉える傾向がありますが、実態はそのフェーズを超えたように感じます。


インドのフードサービス市場は2024年時点で約700億米ドル規模と推定され、年平均成長率は8〜10%とされています。 その中で、グローバル/エスニック料理カテゴリは全体の約18〜22%を占め、都市部ではさらに比率が高くなっています。 インド人の外食やインド料理以外への欲求は年々高まっています。

日本食はイタリアンや中華ほどの規模には至っていないものの、過去5年間で店舗数・認知度ともに着実に拡大している分野です。


一方で、Times of Indiaでは、日本食は近年、 「高級で遠い料理」ではなく、「健康志向」「洗練」「都市型ライフスタイル」と結びついた料理として紹介されており、これは現地における体感と近いものがあります。

なぜ今、日本食がインドで受け入れられ始めているのか

第一の背景として挙げられるのは、都市部における食生活の価値の変化です。 インドの都市人口は2023年時点で約5億人を超え、2030年には6億人規模に達すると予測されています。 この都市化は、単なる人口集中ではなく、労働形態、生活リズム、健康意識の変化を伴っています。

従来のインド外食文化では、「量」「油分」「満腹感」が重視されてきましたが、 デスクワーク中心の生活では、食後の重さや眠気が生産性に影響するという認識が広がっています。

都市部の消費者調査では、「外食時に重視する要素」として 「食後に重くならないこと」「ヘルシーさ」を挙げる回答が約50%に達しています。

日本食はこの文脈において、「完全な健康食」ではなく、 「比較的軽く、食後の負担が少ない料理」としても評価されています。


第二の背景は、日本文化への接触機会の増加です。 日本のアニメや日本の自然・食・文化などが、動画配信サービスやSNSを通じ、日本文化は知識ではなく日常的な体験として消費されています。

食は文化体験の入口として機能し、ラーメンや寿司、抹茶は日本への関心を行動に変換する装置になっています。


第三に、外食が「栄養摂取」から「自己表現」へと意味を変えている点が挙げられます。

体験ベースで見るインド人ペルソナ像

外食や外国食産業の主な消費者である、都市部の20〜40代にとって、健康意識や美食とった価値だけでなく、外食はライフスタイルや価値観を示す行為へと進化しています。 その自己表現の手段はさまざまです。

アニメや日本文化を生活の中で消費している若手層は、日本人経営の本格的な日本食レストランでの昔ながらの日本を体験しながら、ジブリやドラエモンなどのアニメに出てきたシーンにあたかも自分が存在しているかのような体験を楽しみます。


30代後半になると、外食は非日常や特別な体験、ラグジュアリーであり、ライフスタイルをビジュアルへ反映させる背景にもなりえます。そういった体験を求める層は、フュージョン系と言われるより華やかな日本食レストランを好みます。


日本食の主要消費者を単純に富裕層と定義するのは正確ではありません。 共通しているのは、都市部に居住し、外食やデリバリーの頻度が高く、 海外や日本の文化への心理的距離が近いという生活文脈です。

日本食へのアクセスはインドでどれほど容易になったのか

インドのオンラインフードデリバリー市場は2024年時点で約90〜100億米ドル規模とされ、 年成長率は15%以上と推定されています。


フード即配アプリZomatoで日本食を検索してみると、わたしの住むデリーに隣接するグルガオンでは50店舗以上がヒット、インド国内におけるGDPトップのムンバイでは39店舗がヒットしました。

一方で、日本食材へのアクセスは店舗およびオンライン上でも、まだまだ少なく、日本食を自宅で楽しむ、体験することはまだまだ現実的ではありませんので、家庭における日本食の選択はまだまだ悲観的です。


ポジティブな変化でいえば、数年前と比較して「寿司キット」を販売するブランドやプラットフォームが増えています。ジャイナ教と言われる厳格な菜食主義に向けたプラットフォームでも寿司キットが販売されており、寿司の日常体験が、食の文化制限を超えて広がりを見せていることが伺えます


Chefling より

好まれる日本食と敬遠されがちな日本食の構造

好まれる日本食には明確な傾向があります。 照り焼き、揚げ物、クリーミーなロール寿司、温かい麺類は、 味の方向性が直感的に理解しやすく、既存の味覚体系と重なりやすい料理です。

既存の味覚体系も、エリアによって異なります。デリーなどの北インドはより保守的であり、ベジタリアン比率が高い傾向にあります。一方で、ムンバイやバンガロールはよりオープンであり、進出するエリアによってこの「理解しやすい味覚」への再翻訳は必須と言えるでしょう。


一方で、生魚中心の刺身や、極端に繊細な味付けの料理、冷えた料理や豆腐のような特有の匂いがある食材、これらは反射的に拒否するものだけでなく、口にしたことのないものへの「不安」の対象になりやすい傾向があります。 これは味覚の問題ではなく、経験と説明の不足によるものです。

どういった食材を使用しているのか、どんなプロセスを経て作られているかといった説明責任をストーリー性を持って伝えることがインド市場へ受け入れられるための一つ大切なポイントです。

インド進出におけるローカライズの本質

成功している日本食レストランに共通しているのは、 日本で正しい形をそのまま持ち込んでいない点です。 行われているのは妥協ではなく、文化翻訳です。


例えば、インド人はより多くの選択肢を好みます。食の好みも一家族をとってもさまざまです。最高のメニュー10品よりも、50品の選択肢のある日本食レストランを求めています。日本食レストランを成功に導いてきたインド人シェフは「品質を少し落として、メニューの種類も少し妥協する。

中華やインド料理に近い日本食を初めて来店する人への逃げ場として準備しながら、品数を多数準備することが大事」だと話していました。


また、料理背景の説明、ベジタリアン対応を前提とした設計、 味の輪郭を分かりやすくする調整、価格帯の段階設計は、 いずれも日本食をインド市場で理解可能な形に変換するための戦略とも言えるでしょう。

まとめ|日本食を体験で提供する

日本食はすでにインド市場で「成立するかどうか」を問う段階を超えられたように思います。一方で、市場の成長と消費者ニーズの発展により、食を体験としてどう提供するかという新たなお題がわれわれには課せられるようになっています。


日本食レストランは、今、インド人の好奇心と探究心をくすぐる、ちょっと海外の体験ができる場として定着しつつあるのでしょう。


本ウェビナー日本レストランのインド進出ー市場基礎・進出形態・法務・マーケー《共催セミナー》」の弊社使用資料全文をご希望の方はhello@storytelling-jp.comまでお気軽にお申し込みください。

参照元:

インド外食・フードサービス市場規模/成長率
https://www.statista.com/outlook/cmo/food/india https://www.ibef.org/industry/indian-food-industry.aspx
インド都市人口・都市化予測
https://www.worldbank.org/en/country/india/overview https://www.statista.com/statistics/271312/urbanization-in-india/
インドの外食・消費者行動(健康志向・外食選択)
https://www.bcg.com/publications/2023/how-indian-consumers-are-changing-their-food-choices https://www.nrai.org/knowledge-centre
インドのオンラインフードデリバリー市場規模
https://www.statista.com/outlook/dmo/eservices/online-food-delivery/india https://redseer.com/reports/india-food-delivery-market/
日本食・エスニックフードの広がり(メディア・市場文脈)
https://timesofindia.indiatimes.com/life-style/food-news/sushi-ramen-and-the-rising-sun-how-japanese-cuisine-is-winning-over-india/articleshow/123559770.cms
https://timesofindia.indiatimes.com/life-style/food-news/from-tokyo-to-mumbai-how-japanese-cuisine-is-winning-indian-hearts/articleshow/120858742.cms

著者

Storytelling LLP 創業者兼CEO。国際的なローカライゼーションの分野で13年以上、デジタルコミュニケーションの分野10年以上の経験を積み、日本ブランドと海外市場をつなぐことに従事。インド・中東チームの多国籍チームとともに、日系企業の海外進出を支援する。

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